2014年2月15日
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遠隔操作ウイルス事件続報
第一回公判から見えてきた事件の核心的争点

 被告は犯人なのか、あるいは犠牲者なのか。五人目の誤認逮捕の犠牲者なのか、それとも希代の知能犯なのか。
 パソコン遠隔操作事件で、威力業務妨害罪などに問われた片山祐輔氏の初公判が2月12日、東京地裁で始まった。
 冒頭陳述で検察側が、片山被告の勤務先のパソコンにウイルス開発の痕跡があることや、片山氏が犯人と見られる人物からのメールに書かれていた江の島や雲取山などにことごとく行っていることなどから、片山氏が犯人であることは明らかであると主張した。
 これに対し、片山氏は起訴された10事件全てで「徹頭徹尾、事実無根です」と主張し、全面的に争う姿勢を明確に打ち出した。
 初公判は片山被告自身が1時間にも及ぶ冒頭陳述を行うなど異例の展開を見せた。また、弁護、検察双方の冒頭陳述の後は、637点にも及ぶ証拠の読み上げが延々を行われた。それだけで丸一日の公判が終わってしまうという内容だった。
 しかし、その合間にも、裁判の核心的な争点が浮き彫りになるシーンがたびたびあった。
 検察側が長々と証拠の読み上げを行う中に、被告弁護人の佐藤博史弁護士が、何度も検察の証拠の読み上げを遮り、証拠の読み上げ方法にクレームをつけるのだ。そのたびに、弁護、検察の双方から怒号が飛ぶなど、法廷は緊迫した。半年を超える公判前整理手続きを経て、弁護側は637点の証拠採用に合意をしていた。にもかかわらず、なぜ佐藤弁護士は検察の証拠読み上げを、たびたび止めなければならなかったのか。
 証拠調べの過程で検察は淡々と証拠を読み上げているように見えるが、実際は膨大なコンピュータデータの中から、自分たちの主張を裏付ける部分のみを抜粋して提示している。これについて検察は「全部を読み上げることは不可能だから」と説明しているが、佐藤氏はこれを受け入れなかった。実際はある特定の印象を与えるために恣意的に抽出されている証拠が、あたかも客観的な証拠であるかのように提示されていることを、佐藤氏は容認しない姿勢を見せた。
 この事件では、公判前整理手続きなどを経て、検察側が片山氏の犯人性を裏付ける決定的な証拠は持っていないことが明らかになっている。稲川龍也次席検事は6月28日の捜査終結の際の記者会見で、「健全な常識を持った人間が余談と偏見をもたずにこの証拠をみれば彼が犯人であることは間違いなく判断できる」と述べている。  しかし、事件の核心がそこにある。この裁判は片山氏が犯人なのか、それとも真犯人によって犯人に仕立て上げられた犠牲者なのかが問われているのだ。片山氏が犯人でないとすれば、遠隔操作ウイルスを通じて真犯人は片山氏のパソコンを乗っ取った上で、氏のパソコン内の様々な個人データをのぞき見し、実際の片山氏の行動パターンに合わせて事件のシナリオを作ったことになる。
 つまり、片山氏の犯人性が疑われる状況証拠は、それがもっともらしければもっともらしいほど、犯人によって捏造された証拠である可能性が否定できないのが、この事件の最大の特徴であり、また公判の結果を左右する争点となる。
 検察側は状況証拠の積み重ねによって、片山氏の犯人性を間接的に証明し、有罪を勝ち取りたいとしている。一方で、弁護側は「グレーをどれだけ足してもクロにはならない」(佐藤弁護士)として、検察側の立証の矛盾点や不自然な点を指摘していく方針だ。最終的には裁判所が検察による状況証拠の積み重ねを「合理的な疑いを差し挟む余地がない」と判断するかどうかにかかっている。決定的な物証がない以上、検察が裁判官にそのような印象を与えることができるかどうかに公判の行方が掛かっているということになる。
 佐藤弁護士は証拠調べ段階での証拠の読み上げにも、そのような印象操作の意図をかぎ取り、検察の読み上げ方法についてまで執拗に抗議したと思われる。この裁判がそれだけデリケートな争いになることが、初公判から露わになったと見ていいだろう。
 果たして裁判所にこの事件を正しく裁くことができるのか、初公判を傍聴してきたジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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