2015年7月17日
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司法取引がさらなる冤罪の温床になる恐れ

郷原信郎氏(弁護士)
インタビューズ (2015年7月17日)

 集団的自衛権の行使を可能する安保法制が注目される陰で、今国会では刑事訴訟法の改正案というものが審議されている。しかし、現行法案のまま法改正が行われれば、さらに冤罪が増える恐れがあると、弁護士の郷原信郎氏は警鐘を鳴らす。

 それは改正案に導入が謳われている司法取引が、虚偽の供述を誘発しやすい構造になっているからだ。

 今回の法改正は元々、村木厚子さんに対する証拠改ざん事件などの不祥事や、志布志事件、足利事件、布川事件、東電OL殺人事件そして袴田事件など冤罪や冤罪の疑いの強い事件が立て続けに起きたことを受けて、警察や検察を改革する必要があるとの国民の声に端を発するものだった。

 特に弁護士の立ち会いがないまま密室の中で行われている被疑者や被告に対する警察や検察の取り調べで、高圧的な尋問や脅迫、虚偽の供述への誤導などが常態化しているとの指摘を受け、欧米では常識となっている取り調べの録音録画の義務づけが、今回の法改正の大きな眼目となるはずだった。

 ところが、いざ出てきた法案を見ると、取り調べの可視化は全刑事事件の3%にも満たない裁判員裁判対象事件だけに限定される一方で、可視化をするのであれば、引き替えに捜査権限の拡大が必要との警察の声高な主張が通り、盗聴権限の拡大など、警察、検察に対する監視能力の強化よりも、むしろ捜査権限を拡大する施策が多く盛り込まれた法案となっていた。そして拡大される捜査権限の大きな眼目の一つが、司法取引の導入だった。

 司法取り引きは、「捜査公判協力型協議合意制度」と呼ばれるもので、裁判において、被告人と検察官が取引を行い、被告人が罪を認めたり、捜査に協力することことの見返りに、刑の軽減が図られるというもの。アメリカでは刑事裁判の9割以上で司法取引が行われ、自身の罪状を認める見返りに軽減された刑罰が言い渡されているが、これは犯罪が多すぎるため、裁判にかかる時間と費用を節約することを主たる目的としている。

 今回日本で導入されることになる司法取引は、アメリカで盛んに行われているような、自らの罪を認めることで刑を軽減してもらう自己負罪型の司法取引はは含まれていない。その代わりに、共犯者についての供述を行ったり、捜査に協力することで、自らの罰を軽減してもらう他人負罪型が導入されることになる。要するに告げ口をすることで、自分の罪を軽くしてもらうことが可能になるというもの。

 しかし、これは自分の罪が軽くなったり、無罪放免してもらうために、虚偽の証言で他人を陥れようとする動機が働きやすいため、その問題に対する慎重な手当が必要になる。

 法務省は一旦司法取引が成立しても、証言が虚偽であることがわかった場合は、合意から離脱するこは可能で、しかも虚偽証言には罰則も設けられているため、嘘の証言で人を陥れるような事態は起きにくいと主張する。

 しかし、この制度によって検察官が被疑者・被告の罪を軽減する法的な権限を持つことになれば、その権限を使って、目の前の被疑者に対して、別の被疑者を有罪にするための証言をする虚偽の証言をするよう促すことが十分に考えられる。つまり、協力者が虚偽の証言を行えば検察や合意から離脱できることを謳っていようが、また虚偽証言に対する罰則規定が設けられていようが、検察自らが主導して協力者に虚偽の証言をさせた場合、そのチェック機能は一切働かないことになるのは素人目にも明らかだ。

 検察性善説の上に立って考えるのであれば、そもそも今回の検察不祥事を受けた法改正自体が不必要なもとのなる。

 また、検察がグルになっていない場合でも問題は起こりうる。例えば、検察とある被疑者との間で司法取引が成立し、別の被疑者に対して不利になる証言をしたが、結果的にその証言の甲斐も無く、別の被疑者を起訴できなかったとする。その場合、最初の被疑者は合意によって不起訴になり、もう一人の被疑者も不起訴になってしまうことになり、正義が貫徹されなかったかのような結果となる。

 更に取引によって不起訴となった被疑者に対して、犯罪の被害者などから検察審査会の申し立てが行われ、検察審査会が2度起訴相当の議決を出した場合、取引で不起訴となるはずだった協力者が強制的に起訴されてしまうこともあり得る。

 どう見てもこの司法取り引きはまだ生煮え状態のまま出てきたものと言わねばならない。検察にとっては新たな捜査権限が手にできる以上、歓迎すべき制度になるのかもしれないが、市民社会側の視点から見ると、検察によって制度が濫用され、結果的に冤罪の危険性が増すほか、正義が貫徹されない恐れもある制度ということになる。

 安保法制の裏で現在国会で審議されている刑事訴訟法の改正案に謳われている司法取引の導入の問題点を、郷原信郎弁護士にジャーナリストの神保哲生が聞いた。

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