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2008年01月26日公開

これで薬害の連鎖に終止符が打てるのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第356回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1947年東京都生まれ。69年中央大学法学部卒。76年弁護士登録。薬害エイズ事件被害者弁護団事務局長、医療問題弁護団代表、薬害オンブズパースン会議代表、医療問題弁護団代表、薬害肝炎全国弁護団代表などを歴任。2004年明治大学法科大学院教授、17年より同大学学長特任補佐を兼務。著書に『患者の権利とは何か』、編著に『医療事故の法律相談』、『医薬品の安全性と法』、『医療基本法』など。

著書

司会

概要

1月15日、薬害C型肝炎訴訟は国と被害者原告団の間で和解が成立し、それと前後して「薬害肝炎救済法」も議員立法の形で可決した。
 和解合意書には、被害者の一律救済の他、国が責任を認め謝罪した上で、今後の薬害防止のために第三機関を設置し原因究明を行うことなど、被害側の要望が反映された。和解合意書の署名に際し被害者たちが福田首相から謝罪を受ける場面がメディアで大きく報じられたため、世間的にはこれで薬害問題も一件落着というムードが漂っている。
 しかし、和解合意書を読むと、第三者機関の中身や再発防止策などについて、具体的な内容はほとんど何も記載されておらず、また今回の薬害肝炎の責任問題もあやふやなままだ。
 全国薬害肝炎訴訟団の代表を務めた鈴木利廣氏が、「ここからがはじまり。むしろこれからを見守るべき」と、この合意が長い道のりの第一歩に過ぎないことを強調するように、これで一件落着とせずに、これから出てくる具体的な救済策や再発防止策を厳しく見守っていくことこそが、市民社会の責務となる。
 戦後の日本はスモン、サリドマイド、薬害ヤコブ、薬害HIVなど、一連の薬害連鎖を断ち切ることができないでいる。薬害が告発されるたびに、裁判で国や製薬会社の責任が追及され、過酷な裁判を戦い抜いた被害者たちが、辛うじて謝罪といくばくかの補償、そして再発防止への誓いを勝ち取ってきたが、それでも薬害は一向に無くならない。薬害や医療過誤を多く扱う弁護士である鈴木氏は、「戦後の日本では、国が薬害事件の被告席に座っていない時が一度もない」と言うほど、日本は薬害大国となっているのが現実だ。
 なぜ日本は薬害を根絶できないのか。言うまでもないが、効果のある薬に一定の副作用はつきものだ。重病や難病への対応では、副作用を覚悟の上で、投薬を余儀なくされることもある。しかし、日本の薬害問題をつぶさに見ていくと、そうした薬の有用性議論(効果とリスクの比較考量)を遙かに超えた深刻な「癒着問題」が姿を現す。
 たびたび指摘されてきたことだが、薬に認可を出す厚生官僚の多くが、製薬会社や製薬会社が後援する独立行政法人などに天下っている。また、官僚達は現役時代から講演やアルバイト原稿など「あの手この手で業界に飼い慣らされている」(鈴木氏)ケースも多いと言う。そもそも現役官僚にしてみれば、製薬会社は自分たちの先輩たちが役員の座にあり、しかも将来自分たちがお世話になる可能性が高い再就職先の候補なのだ。そのような中で、政府が製薬会社に中立かつ厳正な立場で安全性を要求し、また責任を追求することが期待できるはずもない。
 同じような理由で、薬害の発生の疑いが明らかになった時、官僚達は直ちに対応を取れず、問題が長年放置された結果、薬害被害が必要以上に広がることが多い。しかし、官僚の立場に立てば、一度認可を出した薬の認可を取り消すことは、自らが所属する役所が、そしてそこの先輩官僚が下した決定が間違っていたことを認めることを意味する。2年程度で役職を転々とするキャリア官僚にとって、任期を無難に済ますことが出世の条件である以上、この問題も今の国家公務員の人事制度のもとでは、改善は期待できそうもない。
 官僚は保身に走り、製薬会社は責任追求を恐れずに利益を追求でき、製薬会社に飼い慣らされた学者たちがメーカー寄りの立場から医薬品を評価して政府に答申をする。このような多重癒着構造の中で、薬害の温床を一掃することなどできるはずがない。
 更に鈴木氏は、近年製薬業界にはもっと深刻な問題が持ち上がっているという。それは、M&Aで巨大化したビックファーマ(巨大多国籍製薬企業)が、研究者や医療機関などに広範な便宜供与や資金援助を行った上で、薬の効能のPRに莫大な広告費をかけて世界中の市場を支配し始めていることだ。例えばタミフルのように、副作用が指摘されても、それを評価する専門家たちが、根こそぎ製薬会社の影響下にあるという事例も、もはや当たり前になってきている。
 また、仮にそうした流れから一線を画して、日本だけが薬の認可基準を厳しくすれば、一時的に薬害は減るかもしれないが、日本の製薬会社が国際市場で競争力を失い、気がついたらタミフルの中外製薬がロッシュ傘下に組み込まれているように、軒並みビッグファーマのM&Aの餌食となりかねない。日本が、官僚と業界、学会の癒着などという初歩的な問題でつまずいてるうちに、製薬業界はグローバル化の大きなうねりに飲み込まれようとしているようだ。
 薬害HIV訴訟でも弁護団長を務めるなど、法律家としては薬害問題の第一人者である鈴木氏に、そのような状況の下で、いかにして薬害肝炎問題から教訓を導き出し、それを将来の薬害の再発防止に役立てていくか、そのために私たちは何を注視すべきなのかを聞いた。

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