2016年11月5日
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メディアのメディアによるメディアのための大統領選挙

ニュース・コメンタリー (2016年11月5日)

 アメリカでは大統領選挙の投票日を目前に控え、クリントン・トランプ両候補のデッドヒートが繰り広げられている。

 不規則発言や猥褻テープなどが暴かれ、一時は支持率に差がついていた両候補だが、ここに来て両者の差は縮まってきており、世論調査の中にはトランプが逆転したことを示しているものも出てきている。

 メディアでは識者たちが、トランプ人気の背景にはグローバル競争に敗れて没落した中間層の不満があり、クリントンのメール問題も暗い影を落としていると考えられている。

 しかし、今回の大統領選挙がこれほどまでにデットヒートになった最大の功労者は、メディアを置いて他には考えられない。

 確かにトランプは失言も多く、提唱する政策の中にもメキシコの国境の壁建設など、暴論に近いものが含まれていることも事実だ。しかし、トランプの主張の中にはまともなものも多い。その中で、トランプのネガティブな要素を面白おかしくクローズアップし、持ち上げたり叩いたりを繰り返しながらトランプ現象を煽っていったのが、他でもないマスメディアだった。

 実際、この選挙戦では、トランプの過去の発言を記録したテープや確定申告書、トランプから性的被害を受けたことを訴える女性などが度々登場したが、いずれもメディアの仕掛けによるものだった。

 オクトーバー・サプライズとなったトランプの猥褻テープは、NBCテレビが保有していたものをワシントン・ポストが公開したものだったし、過去の確定申告書は何者かがニューヨークタイムズの記者の自宅のポストに投げ込んだものという説明だった。

 アメリカのメディア専門家の中には、もし候補者がトランプでなければ、この手の素材をメディアが公開に踏み切っていなかった可能性があると指摘し、いい意味でも悪い意味でも、メディアはトランプを特別扱いしていることに留意する必要があると警鐘を鳴らす。アメリカ社会に様々な不満が渦巻く今日、叩かれれば叩かれるほどトランプの支持が広がっていくという面があるからだ。

 こうして「トランプ劇場」はメディアの手で作られていった。ドナルド・トランプという希代のヒール(悪役)が、毒を吐きながら、アメリカに充満する不満層に支えられてのし上がっていく。そして、遂にはエスタブリッシュメントの代名詞と言っても過言ではない輝かしい経歴を誇る、元ファーストレディのクリントンに挑戦できるところまで登りつめる。

 このシナリオが大当たりし、大手メディア、とりわけ3大ネットワークを始めとするテレビ局は、大統領選挙の予備選が始まって以来、軒並み空前の利益をあげている。トランプの暴論気味の発言や差別的な発言、破天荒な政策を煽れば煽るほど、トランプ劇場は盛り上がり、売り上げが増える。そして、なぜかそれが現状に不満を抱える大衆に受け、トランプの支持が落ちないのだ。

 メディアがそのような習性を持った生き物であるとことは、今や誰もが知る周知の事実かもしれない。しかし、今回の問題は、世論を煽ってきたメディアが、果たしてこの劇の落としどころをちゃんと考えているかどうかが怪しいことだ。

 どうも既存メディアは、こんな暴論だらけの候補が大統領に選ばれるはずがないという大前提の下で、安心してトランプ現象を煽れるだけ煽ってきた感がある。しかし、もしかするとそれが、もはや制御不能な状態に陥っている可能性があるように思えてならない。

 それともメディアは本気でトランプ大統領を誕生させることで、大統領選挙後もこの劇場が継続することを望んでいるのだろうか。

 このドラマは果たして喜劇に終わるのか、あるいはとんでもない悲劇に終わるのか。トランプ劇場の結末について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 その他、アメリカ先住民に対する過去の迫害の罪を認め、ダコタ・パイプラインの反対運動を支持する論説を放送したケーブル局MSNBCの英断について、など。

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