脱アベノミクスを掲げる石破政権に経済政策の決め手はあるか
第一生命経済研究所首席エコノミスト
1985年鹿児島県生まれ。2008年早稲田大学政治経済学部卒業。同年大和総研入社。15年~16年に金融庁に出向、アジア金融インフラ整備支援を担当。16年より現職。21年から内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員、22年から社会保障審議会年金部会委員。著書に『35歳から創る自分の年金』、共著に『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』など。
経世済民オイコノミア、第六回は大和総研主任研究員で金融や税制度の研究や男女の働き方について積極的に発信を行っている是枝俊悟氏をゲストに、経済の視点からこれまでの少子化対策を検証し、今後日本がとるべき施策とは何かを考えた。
2022年の日本の出生数は速報値で80万人を割り込み、出生率も前年の1.30よりさらに下がることが予想されている。少子化対策には待ったなしという状況のなかで、岸田首相は近々「次元の異なる少子化対策」のたたき台を発表する予定だ。
これまで日本の少子化対策は、児童手当を通じて広く薄く支援をすると同時に、女性が正規雇用で働き続ける際の育児環境を整備することに主眼が置かれていた。具体的には育児休業制度の整備や残業の規制、保育所を増やすことなどだ。 是枝氏はこうした支援は働く女性の出生率増加に一定程度は貢献してきたとの見方を示す。健康保険に加入している民間企業の正社員の女性の出生率は、2010年の0.7から漸増に転じ2020年には1.0を超えた。他方、育休を取得しやすく遠方への転勤も少ない地方公務員の出生率は1.8前後と高い水準にある。国家公務員の出生率も1.5程度ある。是枝氏は労働環境の整備によって民間企業や日本社会全体の出生率を公務員並みの水準に近づけていくことは可能であると指摘する。
さらなる支援内容として是枝氏が提案するのは、在宅育児支援だ。保育所に子どもを預けながら働き続ける人は産休や育休などの制度が利用できるのに対し、仕事をやめて育児に専念する人には一律の児童手当しかなく、支援が行き届いていないと是枝氏は指摘する。
さらに是枝氏は、家事労働の貨幣価値も考えなければならないと言う。生まれたばかりの子どもの育児は実質的に24時間労働となり、仮にそれを外注しようものならとてつもない金額になる。育児にとどまらず、家事にかかる時間を労働として含めれば男女の間で大きな労働時間の差が生まれている。男女の働き方について考える際に忘れてはならぬ側面だと是枝氏は語る。
これまでの日本の少子化対策の評価や今後取るべき政策、そして家事労働の貨幣価値などについて是枝氏と田内学が議論した。