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2023年10月28日公開

岸田政権の経済対策では日本の経済は再生しない理由とその対案

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1177回)

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完全版視聴期間 2024年01月28日23時59分
(あと48日20時間57分)

ゲスト

第一生命経済研究所首席エコノミスト

1967年山口県生まれ。90年横浜国立大学経済学部卒業。同年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て2000年退職。同年、第一生命経済研究所入社。11年より現職。著書に『インフレ課税と闘う!』、『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』など。

著書

概要

 「経済、経済、経済」

 岸田文雄首相が今国会の所信表明演説で高らかに掲げたキーワードだ。

 しかし、「経済の岸田」を自負する首相が出してきた経済対策は、残念ながらあまり効果が期待できそうにない。

 9月末に発表した「経済対策の5本柱」をもとに、岸田政権は総合経済対策なる本格的な経済対策を11月2日に発表する。まだ全体の予算規模は明らかになっていないが、10兆円を超える大型の補正予算案が出てくる見込みだ。ところが、これまでに明らかになった対策の中身を見る限り、今多くの国民が痛みを感じている問題への有効な手立てがほとんど見つからないのが実情だ。

 「経済対策の5本柱」は、物価高対策、持続的な賃上げ国内投資促進、人口減少対策、国土強靱化から成る。最優先課題として挙げられている物価高対策としては、所得税住民税減税や、ガソリン電気ガス代補助金の2023年4月末までの延長などが含まれる。

 減税は1人あたり3万円の所得税、1万円の住民税減税に加え、住民税を納めていない世帯に対しては7万円の給付を行うという。ただし、いずれも実施されるのは来年6月になる。既に6兆円を超える税金が投入されているガソリンの補助金については、元々これは時限的措置だったはずだが、これを廃止した瞬間にレギュラーガソリンがリッターあたり200円を超えてしまう状態が続いているため、政府としてはやめるにやめられない状態だ。

 第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、今、一番国民が痛みを感じているのは食料品の値上げであることを指摘した上で、家計の消費支出の3割を占める食料品の値上がりをそっちのけにした物価高対策はピントがずれていると語る。2023年9月の生鮮食品を含む食料品の消費者物価指数は、2022年9月から9.0%も上がっているのだ。

 経済の話はとかく難しくなりがちだが、熊野氏の説明は非常に明快だ。要するに今日本が抱えている問題は大きく分けて3つ。日銀金融緩和が不必要に続いているために物価が上がっていること、物価が上がっているのに賃金、とりわけ企業数で99.7%を占める中小企業の賃金が上がらないこと、そして少子高齢化とそれに伴う労働力不足の3つだ。

 そもそも今の日本を襲う物価高の根本的な原因は円安にある。そして日本の食料自給率は38%、エネルギーの自給率も12%と先進国としては最低レベルにある。円が安くなれば、その分輸入製品の物価が上がるのは当然だ。食料とエネルギーという国民生活にとって不可欠な商品を過度に輸入に頼っている日本は、円安が即消費者物価の高騰を招く。

 また、今の円安の原因が日本のマイナス金利政策にあることも明らかだ。リーマンショック後、日本と同様に一時は金融緩和に走ったアメリカEUは早々に出口戦略を実施し、金利の引き上げを繰り返し行ったが、日本だけがマイナス金利のまま取り残されてしまった。内外の金利差が広がれば広がるほど、円安は進み、輸入物価は上がり続ける。

 本来、日銀はインフレ目標を2%と定め、それが達成されるまでは「異次元」の金融緩和を続けるという話だったが、既に日本のインフレ率は2%を大きく上回っている。にもかかわらず、金融緩和路線を変更できないのは、あまりにも長く事実上のゼロ金利が続いたため、日本企業がゼロ金利を前提とした体質となっていて、金利上昇に堪えられなくなっているからだ。また、金利があがった場合の日本の財政への影響も大きい。低金利に慣らされ、甘やかされた日本は金利引き上げに転じた時の経済への影響が余りにも大きいため、そう簡単には脱金融緩和に踏み出せないのだ。

 しかし、熊野氏は日銀が異次元の金融緩和をやめない限り、この物価高は収まらないと言い切る。

 熊野氏はまた、ガソリン補助金も問題のある施策だと言う。市場原理では本来、値段が高くなると消費を控えるようになり、再び値段が下がっていくが、政府が大量の補助金を投入している今、税金という形で国民自身が負担していることに変わりはないが、ガソリンスタンドでは痛みを感じないため、今まで通りガソリンを消費してしまう。EVの急速充電器の設置にあてることもできた税金をガソリン補助金に使うことは、EVへのシフトを妨げていると見ることもできる。

 逆の見方をすると、岸田政権がやっていないところに、本来実施されなければならない正しい経済対策が潜んでいると見ることもできる。ガソリンの補助金に6兆円からの大枚を注ぎ込むのなら、むしろ日本が世界から遅れを取っているEVシフトをこの原油高を奇貨として思い切って行うべきではないか。また、これはある程度時間をかけて実現せざるを得ないが、食料自給率やエネルギー自給率の低さが日本にとっては大きな経済安全保障上のリスクになっている以上、少しずつでも自給率を上げる施策に思い切って踏み出してはどうか。

 日銀の金融緩和と並んで今日本が必要としている施策は、中小企業の賃上げを後押しすることだと熊野氏は言う。日本の中小企業は企業の利益に占める賃金の割合である労働分配率が極端に高いため、簡単に賃上げができない。そのため労働分配率が低い大企業がまずは賃上げを実行することで経済の回転を良くすることで、中小企業が賃上げを行いやすい環境を作っていく必要があると言う。

 また、少子高齢化についても、仮に今政府が有効な手立てを実施できたとしても、それが経済面で効果を生むのは20~30年先になることを考えると、より即効性のある対策が待ったなしだ。その一助として、現在日本が行っている技能実習性のような抜け穴に頼るのではなく、本格的な外国人労働者の受け入れを検討すべきだと熊野氏は言う。

 こうして見ていくと、結局のところ、今回の経済対策を見るにつけ、岸田政権も、そして広い意味で自民党政権も、現在日本が抱える根本問題に手当てする気がないとしか思えない。そもそもそのような施策を実施する能力がないのか、あるいは自民党政権ではその支持基盤とバッティングするためやりたくてもできないのか。どちらにしても、仮に今回のような一時的なバラマキで支持率が多少回復したとしても、本気で日本を変えていく気概がないことを国民から見透かされている限り、政権の支持率は回復しないだろう。

 岸田政権の経済対策は妥当なのか、問題はどこにあり、本当に必要な対策は何かなどについて、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

(※番組中に使用したフリップ「値上がりの例」の単位の表記に誤りがありましたので、修正の上、差し替えました。ここにお詫び申し上げます。2023年11月5日21時20分)

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