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2014年11月22日公開

アベノミクスの先にある日本の姿とは

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第711回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

第一生命経済研究所首席エコノミスト
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1967年山口県生まれ。90年横浜国立大学経済学部卒業。同年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年退職。同年より第一生命経済研究所入社。11年4月より現職。著書に『本当はどうなの?日本経済 - 俗説を覆す64の視点』、『バブルは別の顔をしてやってくる』など。

著書

概要

 安倍首相は来年10月に予定されていた消費税率の引き上げの延期を決定し、その判断について国民の信を問うとして、11月21日に衆議院を解散した。解散後に記者会見で安倍首相は、自らこの解散を「アベノミクス解散」と位置付け、自らが進めてきた経済政策を選挙の争点に据える意向を示している。
 憲法7条を根拠とした今回の解散については、憲法上大きな疑義があり、首相の解散権の濫用に当たるとの指摘がある。また、一票の格差をめぐり、前回12年の総選挙が違憲状態にあると判断した最高裁が根拠とした「一人別枠方式」の撤廃も進んでいない。この選挙が、選挙後の違憲訴訟で「違憲状態」、あるいは「違憲」判決が確実な状況の元で行われる選挙であることは、われわれ有権者としては厳しく肝に銘じておく必要がある。(今週のニュースコメンタリー参照)
 これは残念なことではあるが、しかし、たとえ違憲だろうが何だろうが選挙は実施され、首相がアベノミクスの是非を問うと宣言している以上、この際、アベノミクスをきちんと検証しておくことは不可欠だ。
 安倍首相は首相就任後、直ちに、日本経済が長年苦しんできたデフレからの脱却を目指し、アベノミクス第一の矢として金融緩和を実施した。本来、金融政策は日本銀行の専権事項だが、安倍首相は内閣の任命権を利用して日銀の総裁、副総裁、審議委員らに金融緩和推進論者を据えることで、官邸の意向を金融政策に反映させることに成功した。
 安倍首相の意向を強く受ける形で日銀総裁に就任した元財務相財務官の黒田東彦氏は、その段階で既に日銀が行ってきた金融緩和を大幅に上回る「異次元緩和」で膨大な資金を市場に提供した。いわゆるアベノミクスのアナウンスメント効果は少なくとも一面では功を奏し、株式市場と為替市場がこれに敏感に反応、まずは株高円安が実現した。
 政権誕生時には1ドル80円前後だった為替は、118円前後にまで円安が進み、為替差益によって輸出関連企業を中心に業績が好転した。ただ製品の単価が相対的に下がった結果、それが輸出量の増加にまでつながっていないとの見方が強く、円安だけで景気が好転できるかどうかは、依然不透明な情勢だ。
 一方、円安によってガソリン、食料品などの値段があがり、その一方で、賃金の上昇が見られなかったため、一部の輸出関連産業や株式を持つ富裕層を除いた大半の国民生活はむしろ苦しくなっているとの指摘が根強い。
 経済情勢分析の専門家で、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、アベノミクス第一の矢である異次元緩和に消費マインドを刺激するなど一定の効果があったことを認めた上で、「金融緩和策はいわば短距離ランナーであって、その効果をどうつなげていくかが重要だ。このまま短距離ランナーだけで走り続けるのは困難だ」と語る。特にアベノミクス第三の矢と称される成長戦略、とりわけ規制緩和や持続的に実体経済に働きかけることができる施策の重要性を強調する。
 山口県出身の安倍首相にちなんで毛利元就の「3本の矢」に喩えられるアベノミクスの真意は、第一の矢たる金融政策によって消費者の心理や市況が上向いたところで、第二の矢として公共事業を中心とする機動的な財政出動を行うことで景気を下支えし、最終的には本丸たる第三の矢の成長戦略によって、金融や公共事業に頼らずに経済が自立的に回っていくような状況を作るところにあった。しかし、熊野氏によると、第二の矢の財政出動もあまり効果的な事業に投入されていない上、第三の矢がほとんど実効性のある施策が打ち出されていないという。
 このままでは第一の矢の金融政策一本に頼ったままアベノミクスが続けられることになり、ある段階から金融政策は効果が薄れるばかりか、その弊害が前面に出てくることが避けられないと熊野氏は言う。
 「金融緩和は麻酔のようなもの。いつまでも打っているとどこかで効かなくなる。そして日本経済の病理は現状維持で体質改善が進まないまま、麻酔を打ち続けていると、海外からショックが襲って来た時に経済は立ち直れなくなってしまう」と熊野氏は指摘する。
 一方、第二の矢についても、熊野氏の評価は厳しい。安倍政権は発足直後の2013年1月には公共事業が柱となる総額約13兆円と史上二番目の規模となる補正予算を組み、その後も防災対策を中心とした国土強靭化を推進して10年間で約200兆円の事業費投入を計画しているが、熊野氏によると今年度7-9月期の日本のGDP成長において公共事業が寄与したのは0.1%に過ぎないという。むしろ赤字国債乱発によってさらに悪化した日本の財政状況に対する懸念の方が深刻になりつつある。
 しかも安倍政権が財政再建の一環となる消費税増税を延期する決断を下したことで、日本政府の財政再建に対する本気度に対する内外の信用が揺らぐ可能性が十分にある。
 熊野氏を始めとする良識あるエコノミストが、口を揃えて「アベノミクスの本丸」と指摘する第三の矢の成長戦略については、安倍政権の実績はまったく落第点と言わざるを得ない。岩盤規制を突き崩すといった言葉は踊るが、その実態は、廃止になっていない「減反廃止問題」や解禁になっていない「医薬品ネット販売解禁問題」などを見ても明らかだ。このままではアベノミクスは、短距離ランナーの金融政策だけが息が切れるまでひたすら走り続けることになる可能性が高い。
 金融緩和策によって一時的に株価や為替を下支えしても、実体経済の裏付けが無ければ、いずれまた低迷し始める。その繰り返しによって次第に金融緩和の効果は薄れていく。熊野氏は金融緩和の最大の問題は、その出口を誰も知らないことにあると警告する。今のところ長期国債の金利は抑えられているが、それもいつまで続くかも分からない。アメリカが金融引き締めに舵を切った中で日本だけがいつまで緩和を続けることになるのか。いや、どこかの段階でそれをやめる選択肢が日本にあるのか。
 これまでもっぱらイケイケの金融緩和論者と見られていた日銀の黒田総裁でさえ、日本の財政運営に信用が無くなった場合の市場の反応について「対応が極めて困難になる可能性がある」と述べていることを見ても、異次元金融緩和の副作用は、誰にもわからない、未知の世界なのだ。
 2012年の政権交代以降、株価は上がり、円安によって一息ついている日本企業も多い。安倍首相が記者会見でしきりに強調した、大学生・高校生の就職内定率も確かに上がっている。給料も上がっている業種もあろう。しかしこれらがアベノミクスの成果かどうかはしっかり見極める必要がある。
 一方で、円安による材料費高騰に苦しむ企業もあるし、消費税増税によって実質賃金はむしろ低下している上に、業績好調な企業はほんの一部の輸出関連・大企業に限られているという統計もある。
 首相がアベノミクスを問う選挙を打った以上、野党は対案を出さなければならない。熊野氏は、もともと今回の消費税の税率引き上げは社会福祉予算の充実のためだったことを思い出して欲しいと言う。誰でも増税は嫌いだろうが、消費税の引き上げを伸ばすことでわれわれの社会保障はどうなってもいいのか。野党はそれを問い、あえて消費税を引き上げてでも安心できる社会保障構築の青写真を示すべきではないか、と熊野氏は問う。
 あえて安倍首相自らが打って出た「アベノミクス選挙」の舞台に乗り、日本がこのままアベノミクスを続けることの意味とその対案の可能性を、ゲストの熊野英生氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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