一貫して強者に優しく弱者に冷たい社会保障改革が行われた
東京大学名誉教授
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1953年群馬県生まれ。76年東京大学経済学部卒業。81年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。東京都立大学経済学部助教授、東京大学社会科学研究所助教授などを経て98年より現職。著書に『生活保障のガバナンス・ジェンダーとお金の流れで読み解く』、『現代日本の生活保障システム・座標とゆくえ』など。
この選挙にアベノミクスの継続への信を問うとしている安倍首相は、選挙戦でも雇用状況の改善など、ここまでのアベノミクスの成果を強調する。しかし、社会政策が専門の大沢真理東京大学教授は、安倍政権の経済政策、とりわけ社会保障や雇用分野については、「当然赤点、合格点ではない」と厳しく評する。
大沢氏に、ジャーナリストの神保哲生が、この選挙の社会保障・雇用の分野での真の争点を聞いた。
安倍首相はアベノミクスの成果として、「安倍政権で2%賃金がアップした」と主張する。しかし、大沢氏は、この数字は労働組合の「連合」が春闘で経営側から得た回答をそのまま引用しているだけで、現実を反映した値ではないと指摘する。また、仮にそれが実行に移されたとしても、これは労働組合に加盟する大企業の正社員を対象したものに過ぎず、労働者全体の状況を反映するものではないと言う。
その上で大沢氏は、安倍政権では一貫して実質賃金が低下してきたとして、「実質賃金が一年間で6%落とした政権はない。リーマンショックでもそんなに落ちていない」と、アベノミクスの成果に批判的だ。
安倍政権は非正規雇用の処遇改善として「同一労働・同一賃金」の制度改革を掲げているが、これに対しても、大沢氏はその中身に疑問を呈する。政府の考える「同一労働・同一賃金」は、期間の定めがなく、正社員と変わらない仕事に従事するほんの一握りの非正規雇用者だけを対象にしている可能性が高いからだ。
全ての労働者に対して働き方の価値に見合う処遇を行うことを「同一価値労働・同一賃金」もしくは「均等待遇」と呼ぶが、政府があえて「同一労働・同一賃金」と呼んでいることの真意を大沢氏は訝しがる。安倍政権が一貫して優遇してきた大企業は、規制緩和によって活用の幅が広がった低賃金の非正規労働者をフル活用することで大きな利益を上げており、正社員と同等の報酬を前提とする国際標準の「同一価値労働・同一賃金」を決して歓迎していないからだ。
このままアベノミクスを続けた場合の影響として大沢氏は、保育士の待遇改善や介護システムの改善など、既に社会問題となっている社会保障制度の改善が更に遅れることになるだろうと指摘する。元々、安倍政権の社会保障の充実は消費増税による税収増を前提としていたが、すでに財源の裏付けがない以上、空約束になることは避けられない。しかも、実質賃金が上昇しない以上、GDPの6割を占める消費が上向かないため、経済成長による増収も期待できないからだ。
大沢氏は野党、とりわけ民進党が経済成長と分配のバランスが必要と訴えていることについても、その主張自体は間違ってはいないが、アベノミクスではなぜ成長できないかを指摘した上で、独自の成長戦略を提案できていない点が不満だという。
(聞き手 神保哲生(ビデオニュース・ドットコム))