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2019年2月9日
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日韓すれ違いの根底にある1965年協定の玉虫色決着

吉澤文寿氏(新潟国際情報大学国際学部教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第931回(2019年2月9日)

 玉虫はどこから見るかによって、色々な見え方をする。元々、玉虫色の決着というのは、それぞれが自分に都合のいい解釈ができるような文言で合意することだが、当然それは将来どこかで問題が再燃するリスクを内包している。要するに、問題先送りの技法に他ならない。

 従軍慰安婦問題に続いて徴用工、そしてレーダー照射と、日本と韓国の政治関係が最悪の状態に陥っている。

 日本政府は徴用工についても、「完全かつ最終的に解決された」と書かれた1965年の日韓請求権協定第2条を引用しつつ、この問題は既に解決済みであるとの立場を貫いているが、韓国側はまったく納得していないようだ。

 請求権については、政府間で請求権の扱いが決着していても、通常それは「外交保護権」の決着を意味するものであり、個人の請求権までは制約しないと解釈できるため、日本の閣僚がたびたび発言する「政府間で決着済み」という説明だけでは、今回の事態への対応としては不十分な面があることは否めない。それはそれで、今後も続けていく必要があるだろう。

 しかし、そうした各論で口角泡を飛ばす前に、どうもわれわれには知っておかなければならないことがある。

 日韓間には50年以上も積み残したままになっている、歴史的に重大な課題がある。過去20年あまり、日韓の間に歴史を巡る紛争が生じる時は、必ずといっていいほど、この課題が問題になっているからだ。これを棚上げしたままでは、日韓関係の真の正常化は難しいと語るのが、朝鮮半島情勢や日韓関係が専門の吉澤文寿・新潟国際情報大学教授だ。

 それは1965年の請求権協定にいたる交渉の過程やその背景と、韓国側がその協定をどう認識しているかという問題だ。

 繰り返しになるが、確かに1965年に日本と韓国が合意した日韓請求権協定では、その第2条第1項で、日韓間の請求権は「完全かつ最終的に解決された」が確認されている。

 しかし、その交渉の過程では、両国の立場が大きく乖離した一つの根本的な懸案事項があった。それは、日本による韓国併合の法的責任だ。請求権協定の交渉過程の外交文書などを見ると、両国のこの問題をめぐる立場の隔たりは極めて大きく、10年を超える交渉を経ても、その距離は一向に縮まらなかった。

 とは言え韓国は当時、経済発展で北朝鮮の後塵を拝する形となり、かなり焦りがあった。時は米ソ冷戦の最盛期だ。一刻も早く日本と和解し、経済援助を取り付けることで、北朝鮮との国力の差を縮めることが、日々、北朝鮮の脅威に晒されていた韓国にとっては最優先事項だったことは言うまでもない。

 日本は1905年に日本が韓国を保護国とし、1910年には韓国を併合しているが、その過程で結ばれた諸条約が合法的なものであったかについて、実は日韓の間では正式には決着がついていない。韓国は併合は軍事力を背景に一方的に強いられたものであり不当なものだったと主張するが、日本はそれが正式な手続きに則った有効なものだったとの立場を一貫してとっている。

 そして、請求権協定では、その点での両国の乖離があまりにも大きかったために、ひとつの手品のような文言が捻り出され、玉虫色の決着が図られた。

 当時、朴正熙軍事政権下にあった韓国では、半世紀近くも韓国を支配し苦しめてきた日本と安易に和解することに対する反対論が根強く、抗議運動も頻繁に起きていたが、朴政権はデモは弾圧し、必要な時は戒厳令を敷くなどして、国内の反対運動を力で押さえ込んだ。

 また、1965年当時、日本は東京五輪の直後で、既に高度経済成長が始まっていたのに対し、韓国は国家が分断されたまま経済的には北朝鮮に先を越され、非常に弱く不安定な立場にあった。しかも、民主政府が実現していないため、政府の決定に民意が介在する余地はほとんどなかった。

 1990年代以降、ソ連の崩壊で冷戦が終結し、経済発展を遂げたことで北朝鮮の脅威に対応するという国家の最優先事項が変わってきた韓国で、弱い立場にあった時にのまされた日本との合意に対する不満が噴き出すことは不思議なことではなかった。韓国側にはその当時結ばれた日本との協定や合意は、足下を見られた不当なものだったという意識が根強くあるのだという。

 無論、諸事情があったにせよ、国と国とが正式に結んだ協定は尊重されなければならない。しかし、韓国側が何に不満を持っているのか、また当時の両国間の交渉がどういう性格のものだったのかについてのファクトを外交文書などを通じて知ることは、日本が今後どのような態度で日韓関係に臨むべきかを考える上で重要な示唆を与えてくれるはずだ。

 国家間で玉虫色の決着がなされたとき、政府は当然、自分たちにとって都合のいいバージョンを強調するだろうし、それが唯一のファクトであるかのように自国民に説明するだろう。政治とはそういうものだ。しかし、何も市民がすべてを政治と同じように考える必要はない。

 吉澤氏は日本と韓国は既に経済や国民レベルで揺るぎない盤石な友好関係を築いているが、植民地時代の法的責任という懸案が未解決なために、政治だけがぶつかり合っている面があると語る。今こそ、政治のレトリックだけに踊らされることなく、両国の市民の一人ひとりが事実関係をしっかりと押さえた上で、相手の立場を理解することが求められているのではないだろうか。

 日韓両国の前に横たわる玉虫色の決着とはどのようなものだったのか。当時、そのような形で棚上げされた背景に何があったのか。なぜ韓国は日本に対してそこまで不満を募らせているのか。そして日本はこの問題にどう対応すべきなのか。日韓交渉の過程を研究してきた吉澤氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

 
吉澤 文寿(よしざわ ふみとし)
新潟国際情報大学国際学部教授
1969年群馬県生まれ。92年東京学芸大学教育学部卒業。95年東京学芸大学大学院教育学研究科修了。2004年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。韓国湖南大学校外国語学部専任講師、新潟国際情報大学情報文化学部教授を経て、14年より現職。著書に『戦後日韓関係 : 国交正常化交渉をめぐって』、『日韓会談1965―戦後日韓関係の原点を検証する』など。

 

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