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2026年08月08日公開

「寝てない自慢」が幅を利かせる社会はそろそろ卒業しないか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1322回)

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ゲスト

1964年東京都生まれ。89年筑波大学医学部卒業。93年同学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、筑波大学基礎医学系助教授、同学大学院人間総合科学研究科准教授、金沢大学医薬保健学総合研究科教授などを経て2016年より現職。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構副機構長を兼務。1998年覚醒をコントロールする神経ペプチド「オレキシン」を共同発見。著書に『睡眠の科学』、『意識の正体』など。

著書

概要

 「総理就任以来0時間から3時間の睡眠が常態だったが、久々に5時間も眠れた」。

 高市首相のSNSへのこんな投稿が話題を呼んだ。

 日本では多忙な政治家や経営者が睡眠時間の短さを頑張りの証しとして自慢することは珍しくない。しかし、これは睡眠も自己管理の重要な一要素と考えられている欧米諸国では、あり得ない話だ。実際、首相のこの投稿には海外からの否定的なコメントが多く寄せられた。睡眠不足を自己管理能力欠如の反映と見る傾向の強い欧米では、3時間しか眠っていない首相に国の運営を任せられるのかといった疑問が出るのは自然なことだった。

 睡眠科学の世界的権威で、覚醒を維持する脳内物質オレキシンの発見者として知られる筑波大学の櫻井武教授は、人間は4時間未満の睡眠では判断能力が著しく低下することが実証されていると指摘した上で、「長距離バスの運転手が『昨晩3時間しか寝ていませんが大丈夫です』と車内放送をしたら、乗客は降りたくなるはずだ。日本という大きな船の舵を取る指導者が、その状態にあるとすればどうか」と首相の投稿に疑問を呈す。

 実際、日本人の睡眠時間はOECD加盟国中で最短で、アメリカとは1時間以上も開きがある。加えて日本人は、睡眠時間を実際よりも短く自己申告する傾向があると櫻井氏は言う。長く眠ることを怠惰とみなし、短く眠ることを勤勉の証しとする価値観が、社会に根強く深く染み付いているようなのだ。

 しかし、日本人が短い睡眠を勤勉の証しと考えるようになったのは、比較的最近のことのようだ。江戸から明治にかけて鎖国が解かれた日本にやってきた外国人たちは、こぞって日本人の悠長さと怠惰ぶりに驚きと不満を書き残していた。時刻の概念すらなかったこの国に、学校教育と富国強兵を通じて時間規律と勤勉を刷り込んだのは明治国家であり、その延長線上に全国的な二宮尊徳像の建立や、戦後の経済大国化の下での「24時間戦えますか」が連なり、現在に至っている。寝ない=勤勉という考え方は日本人が元々持っていた価値観ではなく、国家目的を遂行するために上から押しつけられた人工物としての側面が多分にあるようだ。

 しかし、睡眠不足が人間のあらゆるパフォーマンスを低下させることは、十分すぎるほど科学的に立証されている。毎日1時間の睡眠不足を10日間続けると、認知機能が徹夜明けと同水準まで低下することもわかっている。もし慢性的に3時間未満しか眠れていないというのが本当だとすると、日本の首相は毎日徹夜明けのようなパフォーマンスしか発揮できていないことになる。そう考えると恐ろしいことではないか。

 睡眠不足で最も損なわれるのは、判断や意思決定を司り、感情を制御する前頭前野の機能だ。睡眠不足が重なった結果、睡眠負債が大きくなればなるほど、感情の抑えが効きにくくなり、判断ミスが起きやすくなる。スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故の背景に、意思決定者たちの深刻な睡眠不足があったことをNASAの報告書は指摘している。また、睡眠時間4時間の人は7時間の人に比べ、認知症の発症リスクが3倍以上に達するというデータもある。まさに睡眠不足は百害あって一利無しなのだ。

 睡眠中の脳は、日中に溜め込んだ情報を整理し、シナプスを刈り込み、記憶を定着させる。これらはいずれも人間が健康で文化的な生活を送る上で不可欠な、いわば脳のメンテナンスと言うべき重要な工程だ。しかし、日本は未だに「惰眠を貪る」、「早起きは三文の得」、「不眠不休の努力」、「蛍雪の功」等々、よく眠ることを蔑み、眠らないことを尊ぶ風潮に支配されているようだ。もうそんな軛からは卒業しても良いのではないか。

 なぜ日本人は眠らないのか。人はなぜ、そして何のために眠るのか。睡眠不足は人体にどのような影響を与えるのか。今週のマル激は、睡眠研究の第一人者である櫻井氏をゲストに迎え、睡眠の科学の最前線と、眠らない国ニッポンの病理について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 また、番組の前半ではとどまるところを知らない検察不祥事の連鎖を取り上げた。大阪地検トップによる部下の検事に対する性暴力、16歳の少女を死に追いやった不適切な捜査と長期勾留に加えて、担当検事が捜査対象の女性と不貞関係にあったことまで明らかになるなど、検察を巡る状況は目を覆うばかりだ。それにもかかわらず検察は、自民党の議員連盟からの第三者委員会の設置要求をあくまで撥ねつけている。この検察の唯我独尊・隠蔽体質と、平口法務大臣が与党の政治家でありながら検察をまったく制御できないでいる日本の民主政の根本的欠陥について、神保哲生と宮台真司が議論した。

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