2016年07月09日公開

投票に行けという前に政治が忌避される理由を考えよう

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概要

 明日、日本は1年半ぶりの国政選挙となる参議院議員選挙を迎える。

 安倍政権の下では数多くの重要な政策が実施されてきた。戦後初めて現行憲法の下で集団的自衛権の行使を可能にする安全法制の他、秘密保護法、原発の再稼働、武器輸出三原則の撤廃、TPP交渉への参加等々、政権の命運を賭けた大仕事と言っても過言ではない重要な法案や制度が、次々と実施されてきた。

 しかし、今回の選挙で安倍首相はアベノミクスの継続の是非を問うと主張し、野党陣営も半ばその土俵の上に乗ってしまっている状態だ。

 これでは選挙が盛り上がるはずがない。案の定、直前のマスコミ各社の世論調査では与党の優勢が伝えられている。言うまでもないが、投票率が低くなれば、一般的には与党有利、現職有利になると言われている。

 そもそも国論を二分するような重大な政策が目白押しだったにもかかわらず、この選挙ではその是非は問われていないのだ。与党が有利になるのは当然のことだろう。

 本来、この選挙で問われるべきは憲法改正、とりわけ憲法9条改正の是非だろう。自民党は今回の参院選の選挙公約の中に憲法の改正は含んでいないが、安倍首相は党首討論の場などで、そもそも自民党は自主憲法の制定を党是とする政党であり、独自の改憲案も出している以上、自民党が選挙に勝てば、憲法改正のプロセスを進めるのは当然のことだと明言している。

 政治学者で一橋大学大学院社会学研究科教授の中北浩爾氏も、もしこの選挙で自民党が他の改憲勢力と合わせて参院の3分の2の議席を獲得すれば、「千載一遇のチャンスを逃すはずがない」と、安倍政権がこの憲法改正に乗り出すことは必至だと指摘する。

 しかし、憲法改正の是非を問う声も、またその盛り上がりもこの選挙では感じられない。

 日本の政治はこれまであまりにも多くの欺瞞を許してきた。憲法で軍隊を保有しないと明言しておきながら、世界第4位の軍事力を持ち、世界平和を希求すると言いながら、世界中で戦火に塗れているアメリカの軍事力に依存し、これをサポートしてきた。唯一の被爆国として核廃絶を訴えながら、アメリカの核の傘の下に隠れ、そのアメリカに対しては、明らかに理不尽な条文が多く残る日米地位協定の改正を持ち出すこともできないまま、その矛盾を一方的に沖縄に押し付けてきた。

 国の指導者やエリートたちが、国の根幹に関わる国防や安全保障といった分野で大きな欺瞞と矛盾を抱えたままこれを放置しておきながら、国民に対して目先の小さな問題で不条理や不正義を質すよう求めても、国民が聞く耳を持たないのは当然だ。結果的に多くの国民にとって政治が、自分たちの生活に必要な利益や便益を確保するための手段に成り下がってしまったのは当然のことだった。

 確かに国民の生活を支えることは政治の重要な機能だ。しかし、実際は目先の生活については、ほとんどの決定が都道府県や市町村レベルで意思決定が行われている。本来、国会や国会議員に求められている機能は、国防や外交を始めとする国の大きな方向性や、憲法の精神が守られているかどうかといった国の根幹に関わる問題に真剣に取り組むことのはずだ。

 国政選挙ではそのレベルで真の争点が提示されれば、より多くの国民が関心を示さざるを得なくなるだろう。それはその選択が実際に国の針路を決定ずける可能性が高いからだ。改憲どうのこうのといった形式論の前に、本来、われわれがまず問うべき問題は、自衛隊の存在と沖縄の米軍基地の現状だろう。憲法上の地位もあやふやなまま、軍隊なのか警察官なのかもわからない状態で自衛隊を海外に出している現状や、米軍基地を一方的に沖縄だけに押し付けている現状を放置したまま、小難しい正義論をぶってみても、何の説得力も持ち得ない。

 確かに安倍政権は多くの国の針路の関わる重大な決定を下している。しかし、それとてその更に根っこに横たわる、日本という国の大きな欺瞞に踏み込めたかといえば、むしろ逆のことが行われている。安保法制による集団的自衛権の行使は、日本国憲法の下で日本に課せられた長年の制約を解き放ったかのように言われるが、実際はアメリカと二人三脚で軍事行動を行うことを可能にするところに、その主たる目的がある。日本が抱える欺瞞や矛盾を解消する方向に向かうものではなく、それをより深化させるものと考えるべきだろう。

 民主主義が機能するためには市民の参加が不可欠だ。しかし、今の日本の政治では市民が政治に参加をすればするほど、徒労感を味わることになる宿命がある。この問題を解決しない限り、日本で投票率が飛躍的に上昇することもないだろうし、政権交代なども容易には起きない。ましてや、そのような政治文化の下では、民主主義など正常には機能しない。

 日本の政治が機能し、市民が政治に参加することに徒労感を覚えないような政治文化を作るためには、今、われわれには何が足りないのか。ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。 

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