石破元幹事長が総裁選への出馬を明言
衆院議員
1957年東京生まれ。79年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同年、三井銀行(現三井住友銀行)入社。86年衆院初当選。93年新進党に入党。97年自民党に復党。農水相、防衛相、党政調会長、党幹事長などを歴任。衆院11期(鳥取1区)。著書に『政策至上主義』、『日本列島創生論』、『日本人のための「集団的自衛権」入門』など。
通常国会が閉幕し、9月の自民党総裁選に向けた政局が本格化する。
自民党の総裁選は事実上、日本の首相を選ぶ選挙となることから、一政党の代表者を選ぶ以上の大きな意味を持つことは言うまでもない。
今のところ安倍首相の優位が伝えられているが、2年前に閣外に転じて以来、総裁を目指して着々と準備を進めてきた石破茂衆院議員の周辺も俄然、慌ただしくなってきた。
マル激は7月18日、そんな石破氏を国会の事務所に訪ねた。
石破氏は正式な出馬表明は今国会が閉幕してからとしながらも、ここに来て総裁選出馬を前提とした動きを活発に見せている。
9月20日に投開票される今年の自民党総裁選挙は、党員票と国会議員票が同数となることから、2012年の総裁選で党員から圧倒的な支持を集めながら、国会議員票で安倍氏に敗れた石破氏が、台風の目となる可能性は十分にある。
石破氏に勝算を尋ねると、「勝負はやってみなければわからない」と、満更でもないといった表情を見せる。
しかし、仮に石破氏が総裁選で安倍首相に勝利したとしても、所詮は自民党政権であることに変わりはない。石破政権は安倍政権とどこがどう違うのか。
この質問に対して石破氏は、経済政策、外交政策、社会政策などすべての分野で、独自色を出す強い意向を表明した。
経済政策では株高や企業収益の改善を実現したという意味でアベノミクスの成果には一定の評価を与えながらも、「今さえよければいい」という考えを排し、持続的に日本が経済的に繁栄していくためには、痛みを伴う改革も必要になるとの考えを示した。金融緩和と公共事業一辺倒のアベノミクスでは、持続的な成長は期待できないと石破氏は判断しているようだ。また、石破氏はアベノミクスの下で更に広がったとされる経済格差を是正する必要性も訴える。
外交面では日米同盟が日本外交の基軸であることに変わりはないとしつつも、「このままアメリカ一辺倒でいいのか」と、安倍政権による極端なトランプ政権へのすり寄りに懸念を隠さない。むしろ、日中関係や日韓関係を改善することが、より健全な日米関係の構築に寄与するというのが、石破氏の考え方だ。
社会政策については、人口減少と少子高齢化の中で、世界に冠たる日本の社会保障を維持していくためには、日本人一人ひとりが「稼ぐ力」を上げていかなければならないとして、そのためには格差を是正するとともに、地方の潜在的な力を伸ばしていく施策が必要になると語る。
石破氏は地方創生相を務めて以来、日本各地を回る中で、経済が上手く回っている自治体と、そうでない自治体の差が開いていることを痛感したそうだ。ところが、上手く回っている自治体の情報が、必ずしも他の自治体と広く共有されていない点も改善が必要だと石破氏は言う。
また、憲法改正については、安倍政権が提唱する9条の条文を現状のまま維持した上で、自衛隊の存在だけを加筆するという案に対しては、否定的な立場を取る。日本が憲法9条で放棄している交戦権や自衛権の存在を認めた上で、安全保障基本法のような形でしっかりと歯止めをかけていくべきだというのが、憲法改正に対する石破氏のかねてからの持論だ。
いずれにしても、少子高齢化が加速することで、日本は財政的にもますます厳しくなっていくことが避けられない状況にある。そうした中で、国民から不人気になりかねない「痛みの伴う政策」を実行する茨の道をあえて選ぶ理由を問われた石破氏は、自身のクリスチャンとしての信念にも触れた。
「人間の知恵とか力を超えたことがこの世界にあるということを疑ったことは一度もない。そういう人間のいろんな思いを超えた存在がどう決めるか。そして、人間にできる限りのことをしたうえで、そういう計画に従うっていうことだと思う」と石破氏は語った。
総裁選出馬を事実上表明した石破氏に、石破政権の目指すところを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。