2008年11月15日
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今あらためて問う、この裁判員制度で本当にいいのか

西野喜一氏(新潟大学大学院教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第398回

 市民が重大な刑事裁判に参加することを義務づける裁判員制度の実施が、いよいよ半年後に迫った。今月に入ってからテレビCMも流れはじめ、月末には裁判員候補者に選ばれた人に対する告知の郵送も始まる。もはや引き返せないところまできているかのようにも見える。
 しかし、これまでマル激で何度となく報じてきたように、現行の裁判員制度は大きな問題点を残しており、人を死刑や無期懲役に処する可能性の高い重大な司法制度の変更がこのまま実施されれば、深刻な問題が起きるとの懸念は根強く残っている。また、この制度だけは、とりあえずまず始めてみて、問題があれば直していきましょう、では済まされない面もある。その間、不当な刑罰を受けたり、場合によっては命を奪われてしまう被告が出てしまう可能性があるからだ。
 そこでマル激トーク・オン・ディマンドでは、2回シリーズで裁判員制度をとりあげ、まず裁判員の問題点を指摘する反対派の論客とともに、その問題点を洗い出した上で、後日推進派にそうした問題をどのように考えているのか、また、それでも裁判員制度を導入するメリットとは何なのかをぶつけるシリーズ企画をお送りする。
 まず2回シリーズの前半となる今回は、裁判員にのしかかる過度の負担、公判前整理手続と裁判の簡略化によって失われる精密司法の伝統や、その結果冤罪や誤判の可能性が高まる危険性、厳格な守秘義務規定によって制度の問題点をチェックできない問題などを洗いざらい議論した。
 また、インタビューで登場する作家の高村薫氏による「そもそも人が人を裁くことの意味」やゲストの西野喜一氏による「裁判員制度違憲論」など、この制度の持つ哲学的な矛盾点や憲法上の疑義も取り上げた。
議論を通じて浮き彫りになってきた裁判員制度の最大の疑問点は、「市民参加」「開かれた司法」などの一見美名の元に、実は全く正反対の効果を生む危険性が高いことにある。
 市民参加と言っても、それを口実に公判前整理手続で論点が大幅に絞り込まれてしまうことで、弁護側は検察のシナリオに対して疑義を差し挟む機会を奪われることになる。
 また、裁判員になった市民はそこでの経験を一切口外してはいけないことになっているため、実際に裁判に参加した裁判員と市民社会全体が、経験則や参加意識を共有することはまず難しいことも問題だ。
 さらに、実際の判決や量刑を議論する評議の過程で、裁判官が裁判員にどのような説明を行うかによって、法律の知識が限られる市民は容易に説得や操作が可能になると思われるが、そこでのやりとりは表には一切出てこない。それを裁判員が明らかにすれば罪になるからだ。評議が割れた場合は多数決で評決や量刑が決まるのだが、それが割れたかどうかも、公表はされないし、裁判員はそれを口外してはならないのだ。
 無論法律の知識も限られ、人を裁いた経験も無い一般市民は、特に凶悪な犯罪に対しては情緒的な反応をしてしまう可能性が高い。被害者の司法参加によって、さらに感情的な判断をしてしまうリスクも高い。これもまた、裁判員の参加が被告人の利益となる蓋然性は低いと言わざるを得ない。
 中には、「開かれた司法を装いながら、実は統治権力側によって、より重罰化への流れを正当化するための道具に使われる」、「裁判員に結果責任の一部を押しつけることで、司法が責任を逃れるための口実になる」など、本来の制度の趣旨とは正反対の影響を懸念する向きもある。そして更に根本的な問題として、「いろいろな問題が起きていても、それが守秘義務などによって表には出てこないようになっているため、問題があってもそれが直らない制度設計になっている」など、根本的な欠陥も指摘された。
 元判事で、裁判員制度に強く反対の意を表明している西野氏とともに、半年後に迫った裁判員制度の実施を前に、今あらためてその問題点を見直すと同時に、仮にこのまま制度が施行された場合、どのようなリスクが内在されているかを考えた。

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西野 喜一にしの きいち
(新潟大学大学院実務法学研究科教授)
1949年福井県生まれ。73年東京大学法学部卒業。79年ミシガン大学ロースクール修士課程修了。75年東京地裁判事補。85年名古屋地裁判事、新潟地裁判事などを経て、90年退官。04年より現職。法学博士。著書に『裁判員制度の正体』、『裁判員制度批判』など。 398_nishino
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