2012年5月12日
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大統領選でフランスが選んだものとは

マル激トーク・オン・ディマンド 第578回

 フランスの新しい大統領が決まった。10人が立候補した4月22日の第1回投票では過半数を獲得する候補者が出なかったため、5月6日に上位2候補による決選投票が行われた結果、第1回投票でも1位だった社会党のオランド氏が現職のサルコジ大統領の得票を上回り、当選を決めた。フランスでは故ミッテラン大統領以来、17年ぶりの社会党政権の誕生となった。
 大局的に見れば、今回のフランスで起きた政権交代劇は、リーマンショックに端を発する世界金融危機後、先進各国で新自由主義的政策を掲げていた現職ないし政党が敗れたのと同じ構図の中にあると見ることができるだろう。しかし、元駐仏公使で東京外国語大学教授の山田文比古氏は欧州、特にフランスの特殊事情として、もう一つの危機の存在の影響が大きかったことを指摘する。
 フランスは2008年の第1の金融危機については、他の先進諸国と比べると、大きな政策変更や構造改革を行わずに乗り切ることができた。サルコジ大統領の新自由主義政策の下で、企業の社会保障費負担の軽減や年金の支給開始年齢引き上げといった社会のセーフティネットが削られる前に金融危機に見舞われたことで、従来からフランス社会に存在していた分厚い社会保障制度が危機の経済的影響を一部吸収することができたからだ。
 その後、ギリシャの財政問題に端を発する欧州経済危機がフランス社会を襲ったため、二度目の危機でフランスは大きなダメージを受けたと山田氏は指摘する。
 第2の危機の後、ドイツのメルケル首相と緊密な連携をとりながら緊縮政策へと大きく舵を切ったサルコジ政権の評価をめぐっては、フランス国内外で違いがあると山田氏は言う。市場を含む外部の目は、サルコジ政権の構造改革が不十分だったと見る。しかし、今回の大統領選挙を通してフランス国民が示した意思は、構造改革・緊縮財政政策自体への反発だったと山田氏は指摘する。フランス国民が「古き良き時代のフランス社会モデル」への回帰を望み社会党のオランド候補を後押ししたと言うのだ。
 社会党政権の誕生と同時に、今回の大統領選挙では、第1回投票で「極右」「極左」政党候補が大健闘し、合わせて3割を超える票を得て、3位、4位に入った。これらの候補者への支持は、社会党と国民運動連合という左右の2大政党を支持しない社会層の存在を示唆する。特に「極右」と言われるマリアーヌ・ルペンの躍進は、フランスの右派の間で、国家や主権を対外的に強く主張する伝統的ドゴール主義的主張が弱まっていることと関係しており、金融危機などで痛手を受けた反サルコジ派の低学歴若年層などが、こうした「極右」候補の下に結集する傾向があるのだと言う。
 サルゴジ大統領の緊縮政策を批判して政権を奪取したオランド新大統領ではあるが、ほどなく現実路線に転換し緊縮策を進めざるを得なくなるだろうと山田氏は見る。しかし、その一方で、そのような政権運営を行った場合、右派のみならず左派の間でもオランド氏への不満や失望が拡がる可能性もある。いずれにしても、難しい政権運営が待っていると言えそうだ。
 常に米英のアングロサクソン的グローバル化路線とは一線を画してきたフランスが、先の大統領選で何を選択したのかを、社会学者の宮台真司と哲学者の萱野稔人が山田氏とともに考えた。
(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)

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山田 文比古やまだ ふみひこ
(東京外国語大学教授)
1954年福岡県生まれ。80年京都大学法学部卒業。83年フランス国立行政学院(ENA)外国人特別課程卒業。80年外務省入省、外務省欧亜局西欧第一課長、駐フランス公使などを経て2012年退官。08年より現職。著書に『フランスの外交力』、共著に『ヨーロッパの政治経済・入門』。 578_yamada

 

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