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2014年09月13日公開

スコットランドの独立が問う新しい国のカタチ

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第700回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

お茶の水女子大学名誉教授

1940年東京都生まれ。63年東京大学文学部卒業。67年東京大学大学院社会学研究科中退。71年フランス・トゥール大学大学院留学。お茶の水女子大学文教育学部助教授、同教授、立教大学社会学部教授、法政大学大学院教授などを歴任。現在お茶の水女子大学名誉教授。著書に『デュルケム社会理論の研究』、『ヨーロッパ社会の試練 統合のなかの民族・地域問題』など。

著書

概要

 スコットランドで9月18日、大英帝国からの分離独立を決める住民投票が実施される。1年前は反対派が多数を占め、まだ夢物語の感が強かったスコットランドの分離独立運動だが、投票日を1週間後に控えた世論調査では、僅かながら独立賛成派が反対派を上回ったという。ここに来て、スコットランドという新しい国が誕生する可能性が、俄然現実味を帯びてきている。
 スコットランドは1707年にイギリスと議会を統合して以来300年以上にわたって大英帝国の一員として近代史の中心を歩んできたが、主にケルト民族から成るスコットランドでは、アングロサクソン民族のイギリスに支配されてきたとの思いが根強い。とはいえ、スコットランドは18世紀後半からの産業革命以降、造船などの重工業が栄え、戦後はイギリス労働党の「ゆりかごから墓場まで」で知られる手厚い社会保障の恩恵にも浴してきた。
 お茶の水女子大学名誉教授で、特にヨーロッパ社会を研究しているゲストの宮島喬氏は、サッチャー政権の成立以降、イギリスの中央政府が労働党政権から保守党政権に代わったことで、労働党が多数を占めるスコットランドでは不満がたまっていたと解説する。スコットランドは1999年に約300年ぶりに独自の議会を復活させ、大幅に自治権の拡大を勝ち取るなど、イギリスからは徐々に距離を置き始めていた。その後、独立を問う住民投票の実施を公約したスコットランド国民党(SNP)が、スコットランド議会で過半数を獲得し、イギリス政府も住民投票を認めたために、いよいよ独立を問う住民投票が現実のものとなった。
 しかし、今回のスコットランドの独立の動きを、単なるイギリスからの分離・独立運動として理解すべきではないと、宮島氏は言う。ヨーロッパがEUによって統合される中、スコットランドは既ににEUにオブザーバーとして参加するほか、イギリス政府の頭越しに、EUから産業育成や地域活性化の補助金を受け取っているという。スコットランドの独立には、EUという、イギリスという一国家よりも大きな枠組みの存在が前提にあり、独立後、EUに加盟すれば、独立前とそう変わらない日常が送れるのではないかという見込みと期待がスコットランドにはある。
 これに対して英国中央政府は当然反対の立場だ。スコットランドの人口約520万人はイギリス全体の約8.5%を占め、GDPも約8%にのぼる。確かに大国ではないが、低迷を続けるイギリスにとっては、その分だけ国の縮小を意味する。スコットランドの独立推進派は、独立後も通貨として英国ポンドを使用すると主張しているが、イギリス側はこれを認めない方針を仄めかしたり、EUへの加盟を認めないなど、独立を阻止するためには脅しとも取れる強硬な姿勢さえ見せている。
 またEUも複雑な立場にある。EU内にはスコットランドの他にも、スペインのカタルーニャ地方やバスク地方、ベルギーは南部と北部など、国家からの分離・独立を要求している地域が多く存在する。スコットランドの独立が認められ、独立国としてすんなりとEUへの加盟が認められるようなことがあれば、そうした地域の独立の動きにも拍車がかかることは目に見えている。
 しかし、元々現在の国境線は、列強支配から冷戦構造に至る政治力学の下での産物という側面が多分にあり、世界には自分たちがより強い国に力で統合されているという被害者意識を持っている。しかし、同時にスコットランドのように、強い国の一部になっておくことで、他の国からの支配から逃れられたり、強い国の経済力の恩恵に浴することができる時代も長く続いていた、しかし、冷戦が終わると同時にグローバル化が進み、人、カネ、物の移動がより自由になればなる一方で、強い国が社会保障などの面で自分たちの面倒を見るだけの力がなくなってきた今、大国の傘下で被支配民族の座に甘んじ続けることのメリットが小さくなってきたことも事実だ。
 宮島氏は独立運動が起きている地域では、地域内で支持される政治勢力が、中央では少数派となり、自分たちの意志が通りにくくなっていることへの不満があると指摘する。また、EUな自由貿易圏などのより大きな枠組みがあれば、大きな国家から離脱することのディメリットも最小限に抑えられる可能性が高くなってきた。それがEU圏のみならず、カナダのケベックやインドのカシミールなどでも独立機運が高まっている背景にあると見ることもできそうだ。
 一方、現実的な独立運動に繋がるかどうかまだ未知数ではあるが、沖縄はまさに自分たちの主張と中央政府の政策の矛盾に晒されている典型的な地域と見ることができる。宮島氏は、分離独立運動で重要になるのが地域の交渉力だという。「日本の地域は、まだ国家への忠誠と自らのアイデンティティに引き裂かれているが、欧州では、地域が国家と交渉し、契約するという意識が強い」と言う。絶えず、中央に異議申し立てを行い、条件を提示し、交渉するという姿勢を地方は、見せ続ける必要があるという。
 スコットランドの独立運動が問題提起している既存の国家という枠組みの限界をわれわれはどう考えればいいのか。冷戦が終わり、グローバル化が進む中、国家というものの持つ意味や役割はどう変わるのか。ゲストの宮島喬氏とともにジャーナリストの神保哲生と宮台真司が議論した。

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