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2019年8月10日
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日韓のいがみ合いで崩れる東アジアのパワーバランス

春名幹男氏(ジャーナリスト)
マル激トーク・オン・ディマンド 第957回(2019年8月10日)

 日韓関係が悪化すると、誰が一番得をするのか。

 昨年10月に韓国の最高裁にあたる大法院が、日本製鉄(旧新日鉄住金)に対し元徴用工への損害賠償の支払いを命じる判決を出して以来、日韓関係は坂道を転がり落ちるように悪化の一途を辿っている。

 今年に入って韓国の司法当局が日本製鉄の株式差し押さえを通知したことに加え、日本側からの度重なる協議の申し入れにも韓国側が応じなかったことを受けて、日本側は遂に通商カードを切る。

 7月に半導体材料の輸出規制を実施したことに加え、今月2日は韓国を貿易管理上の優遇措置を受けられる「ホワイト国」のリストから除外する政令改正を閣議決定するなど、韓国のアキレス腱ともいえる通商問題で日本は攻勢に出ている。

 また、悪化の一途を辿る政府間の関係に呼応するかのように、自治体間や民間レベルでの様々な交流事業もキャンセルが相次ぎ、両国を訪れる観光客の数も激減するなど、影響は日韓関係全般に影響を及ぼし始めている。

 共同通信のワシントン支局長などを歴任したジャーナリストの春名幹男氏は、歴史認識の問題に通商問題を絡めた日本政府の判断に疑問を呈する。

 今となっては日本政府は、一連の措置はあくまで通商政策上の措置であり、徴用工問題とは無関係という立場を貫いているが、当初輸出規制を発表する記者会見で、菅官房長官も世耕経産大臣も揃って、徴用工問題で両国の信頼関係が崩れたことを受けた措置であると明言してしまっている。それは記録にも残っているため、韓国が日本の輸出規制をWTOに提訴した場合、日本が不利になる可能性があると春名氏は指摘する。

 それはそれで十分に深刻な問題だが、日韓関係が悪化することで、更に深刻な問題が浮上している。それが東アジアにおけるパワーバランスの変化だ。

 現在、東アジアの安全保障は中国、ロシア、北朝鮮という利害当事国に対して、米国と同盟関係にある日韓両国が、国内に米軍の基地を提供することで、ギリギリのパワーバランスが保たれている。今回アメリカが日韓の仲裁に失敗したことで、アメリカの影響力の低下も露呈してしまった。東アジアの秩序の変更に野心を燃やす国が、この千載一遇のチャンスを逃すはずがない。

 しかも今の韓国は北朝鮮に親和的な文在寅政権だ。日本がホワイト国からの除外を閣議決定した日、文在寅大統領は日本がその気なら、「韓国は北朝鮮と組んで日本に勝ってみせる」とまで発言している。このまま両国のいがみ合いが続くと、日本が韓国を「向こう側に追いやってしまう」ことにもなりかねない。

 実際、日韓関係が悪化するのを横目に、中国とロシアが東アジアで初の合同パトロールを開始したり、ロシア軍機のA50早期警戒管制機が竹島周辺の領空を侵犯するなど、日韓米3国の安保体制に揺さぶりをかける挑発行為も散見され始めている。この時期のメドベージェフ首相の北方領土訪問も、決して偶然ではないだろう。

 また北朝鮮は北朝鮮で、7月以降、5度にわたる短距離ミサイルの発射実験を繰り返しているのに対し、トランプ大統領がこれを問題視しないと発言したことも、日韓米の足並みの乱れを生んでいる。今回発射されている短距離ミサイルはアメリカ本土までは届かないが、日韓両国は十分、射程圏内に入っているからだ。

 しかし、更に困ったことに、日本でも韓国でも、相手に厳しいスタンスを取ることが、政権の支持率を浮上させる効果を持っている。安倍政権の韓国に対する輸出規制の導入は参院選直前に実施され、実際、慶応大学の小林良彰教授の調査では、これが自民党にとって選挙で有利に働いていたという。一方、文在寅政権も当初は韓国経済の状態がよくないため低支持率に喘いでいたが、日本との対立が決定的なものになると、支持率が再浮上しているという。韓国は来年総選挙を控えていることもあり、お互いに厳しいスタンスを維持した方が国内政治的にはメリットがある状態が生まれている。

 春名氏は日本が厳しい対抗措置をとれば取るほど、日本の歴史認識に対する韓国側の反発は強まるだろうと予測する。韓国には日本の植民地支配に対する根強い被害者意識があるため、日本側にとっては十分に正当な措置であっても、韓国側にそうは受け止められない可能性が高いからだ。

 そして日韓の関係が悪化すればするほど、東アジアの安全保障を不安定化させる要因となり、それは日本の安全保障にとって決して得にはならないと春名氏は言う。

 日韓関係の悪化は東アジアのパワーバランスにどのような影響を与えているのか。日本にとってどのような対応を取ることが国益に資する結果となるのかなどを、春名氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

 
春名 幹男(はるな みきお)
ジャーナリスト
1946年京都府生まれ。69年大阪外国語大学(現大阪大学)卒業。同年、共同通信社入社。本社外信部、ワシントン支局長、特別編集委員などを経て2007年退職。名古屋大学大学院教授、早稲田大学大学院客員教授などを経て17年より現職。著書に『米中冷戦と日本』、『仮面の日米同盟』など。

 

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