2014年03月01日公開

エネルギー基本計画とプルトニウムの返還を求めるアメリカの真意

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概要

 安倍政権はオバマ政権の求めに応じる形で、冷戦時代に米国から研究用として提供されていた高濃度プルトニウムを、米国に返還する方向で調整に入ったというが、日米関係の歴史的な文脈の中で、このことの持つ意味を過小評価すべきではないだろう。
 このプルトニウムは冷戦時代に米国から研究用に提供を受けていたもので、茨城県東海村にある高速増殖炉の実験施設で使われていた。これは原子爆弾への転用が可能な純度の高いプルトニウムで、日米間の原子力をめぐる協力関係の証としての象徴的な意味を持つとされていた。
 今回米オバマ政権が日本に対して研究用に提供していた約300キロのプルトニウムの返還を求めた背景としては、公式には核廃絶を目指すことを宣言しノーベル賞まで受賞したオバマ大統領が、テロ防止の観点から兵器転用可能な核物質量の最小化を提唱してきた一環と説明されている。日本以外の同盟国に対しても、提供したプルトニウムの返還を求めているという。
 しかし、第二次世界大戦の敗戦国であり、核兵器を保有しない日本が現在、原発から出る使用済み核燃料に含まれるプルトニウムを保有することが許されている理由は、ひとえにアメリカの後ろ盾があってのことだ。アメリカが研究用に提供している爆弾への転用可能な純度の高いプルトニウムには、そのような日米間の原子力協力関係の象徴的な意味があると受け止められてきたこともまた事実なのだ。
 今回の研究用の300キロとは別に、日本が原発から出る使用済み核燃料に含まれるプルトニウムを既に45トンも保有している有数のプルトニウム保有大国であることについては、テロ防止の観点と同時に、尖閣・竹島の領土問題や安倍首相の靖国参拝で不安定化する中韓両国との緊張関係を背景に、不安視する向きが根強くある。第二次世界大戦から70年が経った今も、日本が再び核武装し軍事大国化することを危惧する声が完全に収まったわけではない。それ故に、IAEAは今日に至っても、日本に対して厳しい核査察を行っているという現実がある。
 更に政府が原案を公表したエネルギー基本計画に、六カ所村の再処理工場の稼働を進める計画が含まれていたこととも、今回との関連では見逃せない。この工場は表向きは原発の使用済み核燃料を再び燃料に加工して利用する「核燃料サイクル」のために必要な施設とされている。しかし、実際にこの施設が稼働すれば日本は毎年9トンの爆弾に転用可能なプルトニウムの製造が可能になるという。
 日本政府は1960~70年代を通じて、国際社会、とりわけアメリカの度重なる要請にもかかわらず、核不拡散条約の批准を先延ばしにしてきた。それは核不拡散条約が、その段階で核兵器を保有していない国には一切核の保有を認めないものだったからだ。その当時から、日本にとって核オプションは現実的な選択肢だったのだ。
 最終的にはアメリカが後ろ盾となって日本の原発開発とその結果生じるプルトニウムの保有を認めることを条件に、日本は核不拡散条約を批准したとされる。そして、今回返還されることになる研究用のプルトニウムは、そうした日米両国の原子力分野の歴史的な協力関係を象徴する意味を持つものと受け止められてきた面がある。
 また、アメリカがこれまで同様の特権を韓国に対しては認めてこなかったことも念頭に置く必要がある。日本はたびたびアメリカのポチなどと揶揄されてきたが、少なくともこれまでは日本がアメリカから特別扱いを受け、アメリカの後ろ盾があったからこそ、国際社会も核に関する日本の特別扱いを容認してきた。そのような側面があったことは否めないのだ。
 日本がアメリカに対して、日米原子力協定の象徴とも言うべきプルトニウムを返還することの意味することについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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