再審法改正を阻む法制審議会と検察支配下にある刑事司法行政の壁
熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)准教授
1975年大阪府生まれ。98年同志社大学商学部卒業。2008年神戸親和女子大学文学研究科修士課程修了。専門はスポーツ教育学、運動学、身体論。同志社大学ラグビー部を経て三菱自工京都、神戸製鋼コベルコスティーラーズでプレー。1999年の第4回ラグビーワールドカップ日本代表。日本代表キャップは11。2007年に現役を引退。神戸親和大学教授を経て25年より現職。著書に『スポーツ3.0』、『脱・筋トレ思考』など。
日本ラグビーの最高峰リーグであるリーグワンが、2026-27シーズンから導入する新たな選手登録制度に、強い批判が集まっている。来シーズンから新たに導入される制度によって、これまで長年日本でプレーをしてきた外国生まれの選手の多くが、出場機会を制限されたり奪われたりする可能性があるからだ。
リーグワンでは現在、日本代表としてプレーする資格を持つ選手を「カテゴリーA」として扱い、日本生まれの選手と同等に扱っているが、新制度では、このカテゴリーAを「A-1」と「A-2」に細分化し、日本生まれではない一部の外国人選手をA-2に事実上格下げするというのだ。
新制度の下でA-1に分類されるのは、従来の基準である、(1)本人が日本で出生した選手、(2)両親・祖父母のうち少なくとも1人が日本で出生した選手に加え、3番目の基準として小中学校の義務教育期間9年間のうち6年以上を日本で過ごした選手というものが新たに加えられることになった。義務教育期間の6年間を日本で過ごすためには、小学校3年次には日本に来ている必要があり、日本国籍を取得している選手を含め、現在日本でプレーするほとんどの外国人選手がA-2カテゴリーに格下げされることになる。ただし、元日本代表のマイケル・リーチ選手や現日本代表のキャプテンを務めるワーナー・ディアンズ選手など代表として30キャップ以上を持つ選手は、例外的にこれからもA-1として扱われるという。
新制度の下ではリーグワンの公式戦で、試合登録メンバー23人のうちA-1を14人以上とし、同時に出場する15人のうち8人以上をA-1とすることが義務づけられる。一方、A-2、B、Cの選手は合計で、試合登録9人以下、同時出場7人以下に制限される。つまり、日本で6年以上義務教育を受けていない選手は、仮に日本国籍を持っていてもAから新たに設けられるA-2に事実上格下げになり、リーグワンにおける公式戦での出場機会が大きく制限されることになる。
この制度変更によって出場機会や契約条件が不利になる可能性があるとして、日本国籍を取得した外国出身選手27人は2026年4月20日、独占禁止法に違反するとして公正取引委員会に申告するとともに、一部の選手は東京地方裁判所に制度の差し止めを求める仮処分を申し立てた。ついに外国生まれのラグビー選手の出場資格をめぐる争いが、司法の場に持ち込まれてしまった。
リーグワン側は、新制度の目的を「国内の競技人口の増加」と「日本ラグビー全体の普及と発展」にあると説明する。つまり日本生まれの選手が育たないので、トップレベルで活躍する外国人選手の数を制限しようというわけだ。リーグワン、並びに日本ラグビー協会では、小中学校年代を含む時期を日本で過ごした選手の出場機会を増やすことで、子どもたちがリーグワンを身近な目標として捉え、競技への参加意欲を高める効果が期待できるという。また、育成年代を過ごした地域と選手登録枠を結びつけることで、海外のスポーツでも採用されている「ホームグロウン制度」を強化する効果も期待されるとしている。
しかし、本当にそうなのだろうか。
元ラグビー日本代表で、現在は成城大学教授としてスポーツ教育学、身体論、スポーツ運動学を研究する平尾剛氏は、今回の制度変更を「理念も哲学もない変更」と厳しく批判する。
日本で義務教育を6年以上受けた選手の出場枠を増やすことが、なぜ子どもの競技人口増加につながるのか。外国出身選手の出場機会が、日本で育った若い選手の成長を妨げているという具体的な根拠はあるのか。そして、なぜ基準が「義務教育6年」でなければならないのか。リーグワン側の説明からは、その因果関係や基準の合理性が十分に見えてこない。
ラグビーの競技人口を増やすために必要なのは、子どもが安全に競技を始められる環境を整え、重大なけがのリスクを減らし、質の高い指導者を育成・配置することだと平尾氏は指摘する。トップリーグの出場枠を入れ替えれば、それだけで子どもたちがラグビーを始めるという説明には、大きな飛躍がある。
平尾氏は、競技人口減少の原因を外国出身選手の存在に求めるのは本質を取り違えていると指摘する。競技人口を増やすための土台づくりを行わないまま、将来の日本代表やリーグワンへの出場機会で日本生まれの選手を優遇しても、問題の解決にはならないと平尾氏は言うのだ。
さらに深刻なのは、新制度が、選手本人の努力では変えることのできない過去の生育歴を基準としていることだ。
現在の選手が、今から日本の小中学校に通い直すことはできない。既存の制度を前提に日本に渡り、日本国籍を取得し、日本代表や所属クラブのために長年戦ってきた選手が、突然、過去の教育歴を理由に別のカテゴリーへ移されるのは、「遡及禁止の原則」にも反する。せめて現在カテゴリーAとしてプレーしている選手を従来通りに扱う十分な経過措置があってしかるべきだと思うが、それも設けられていない。その割には、なぜか30キャップ以上を持つ著名な選手には例外措置が取られていることも、別の矛盾を生む。
平尾氏は今回の制度変更の背後に、日本代表には日本生まれの選手しかいなかった時代に対するノスタルジックな思いを持つ一部のラグビーファンの声があるのではないかと言う。日本代表チームは日本人だけで形成してほしいという願望のようなものが根強く残っているのではないかというのだ。
ラグビーには国の代表になるために国籍を要件としない伝統があり、ラグビーの国際統治機関であるワールドラグビーでも「所属協会主義」の基準を採用している。これはかつて大英帝国時代に海外の植民地に渡ったイギリス人がイギリス国籍のまま渡航先の代表としてプレーできるようにするために作られた制度と言われているが、それがラグビーのユニークな伝統として根付いている。また、日本代表の外国人比率は確かに国際平均よりは高いが、スコットランドやトンガ、サモアなどは日本よりも多くの外国人を代表に選出している。
実際、日本代表は出生地、国籍、肌の色、母語の異なる選手たちが、1つのチームとして戦うことでここまで強くなってきた。とりわけ2019年のワールドカップ日本大会では、多様な背景を持つ選手たちが結束して戦う姿そのものが、日本代表の魅力として多くの支持を集めた。
平尾氏は今回の制度が、ラグビーが体現してきた多様性、公平性、包摂性に逆行すると指摘する。ワールドラグビーが掲げる「品位・情熱・結束・規律・尊重」というコアバリューに照らしても、影響を受ける仲間を一方的に不利な立場に置く制度を、ラグビー界が黙認していいのかと問いかける。
無論、国内で育った若い選手の育成に力を入れること自体にまったく異論はない。しかし、本当に若手を育てたいのであれば、クラブのアカデミー制度を充実させ、大学や高校との連携を強化し、若手選手が実戦経験を積める大会を設けるなど、いきなりトップレベルに根拠が不十分な制限を設ける前に、すべきことは山ほどある。まずは正面から育成策を講じるべきではないか。
多様性を強さに変えてきた日本ラグビーは、これからどこへ向かおうとしているのか。若手育成という目的と、外国出身選手の権利や尊厳は、本当に対立するものなのか。そして、今回のルール変更には、日本ラグビーの未来を支えるだけの理念があるのか。1999年のワールドカップ日本代表として、多様な出自を持つ仲間たちとともに戦った経験を持つ平尾剛氏と、自身もラグビー経験者で現在大学ラグビーの指導に携わるジャーナリストの神保哲生が、リーグワンのカテゴリー制度変更が突きつけた問題を議論した。