2010年9月25日
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緊急特番・特捜検察は即刻廃止せよ

魚住昭氏(ジャーナリスト)、落合洋司氏(弁護士、元検事)
マル激トーク・オン・ディマンド 第493回

 ここ数年来、折に触れ問題視されてきた特捜検察による強引かつ恣意的な事件捜査が、ついに大きな社会問題となってしまった。
 最高検は21日、郵便不正事件で主任検事をつとめた大阪地検特捜部の前田恒彦検事を、証拠改ざんの容疑で逮捕した。厚労省の村木厚子元局長が無罪を勝ち取ったあの事件で検察は、早い段階で村木さんの無実を知りながら、証拠を改ざんしてまで無理矢理有罪にしようとしていた疑いが持たれているのだ。
 かねてからこの番組では、検察、特に特捜部の担当した事件の問題点、とりわけ検察が自ら描いたシナリオを無理矢理押しつけていく、人を人とも思わないような強引な捜査や、メディアと検察が一体となって事件を作り上げていく手法が、司法の正義をも揺るがしかねない重大な危険性をはらんでいることを指摘してきた。社会正義の体現者たる司法の正義が揺らぐことは、社会正義そのものが揺らぐことを意味するからだ。
 今回の「証拠改ざん」がもし事実だとすれば、これは検察にとって致命的なダメージとなる。多くの市民が、「検察が証拠を捏造するようでは、この先何を信じていいか分からない」との不安な思いを持っているはずだ。この際、徹底的に膿を出すべきだろう。しかし、その際に注意しなければならないことがいくつかある。それは、この事件が、前田恒彦という1人の検事固有の問題なのか、またこれは証拠の改ざんという個別の問題なのか、それとも特捜検察のあり方そのもの、そして引いては社会全体がこれまで特捜という存在とどう向き合ってきたかといった、本質的な問いに他ならない。
 1980年代に共同通信記者として検察を担当し、その後フリージャーナリストとして長年にわたり検察問題を取材してきたジャーナリストの魚住昭氏は、この事件はあくまで氷山の一角であり、前田検事は特捜検察の中では決して特別な存在ではないと話す。特捜が扱ってきた事件のほとんどが事実関係に首を傾げざる部分が多いもので、特捜はこれまでも自らシナリオを描いた上で、自白しない限りいつまでも拘も持ち、現在、朝鮮総連本部をめぐる詐欺事件の公判で被告である緒方重威元公安調査庁長官の主任弁護人として前田検事と法廷で対峙してきた落合洋司弁護士は、特捜部の機能そのものに元々無理があると指摘する。検察本来の役割は、公判を担当する過程で、事件捜査を行った警察の捜査のあり方をチェックするところにある。しかし、特捜検察だけは独自の判断で事件に着手でき、自ら捜査、逮捕まで行う権限を持っている。検察の一部門である特捜が起訴した事件を、検察自身がチェックできるはずがない。特捜捜査だけは無理な捜査を行っていても、それがノーチェックでまかり通ってしまう構造的な問題があるというのだ。
 しかも、結果的に、それだけ強大な権限を与えられた特捜部では、特捜が動く以上は少しでも大きな事件にしたいという「ゆがんだ功名心」が働く。それが暴力的な取り調べで被告の人格を破壊して抵抗する気力を失わせたり、嘘の証言を脅し取ったりするような強引な取り調べや、今回のように証拠を改ざんしてまで「大物」を有罪にしようとする原因となっているというわけだ。
 そのような構造的な問題がある以上、検察の特捜部は廃止し、検察は検察本来の機能である警察のチェックや公判の維持に専念すべきではないかと魚住、落合両氏は言う。
 確かに問題がここまで大きくなった以上、この際検察、とりわけ特捜部制度は廃止も含めて根本から見直す必要があるだろう。しかし、その上で、もう一つ忘れてはならない大きな問題がある。それは、これまで裁判所は何をやってきたのかということだ。検察の捜査に重大な問題があったとすれば、なぜ裁判所はそのような問題のある捜査を容認してきたのか。特捜の捜査手法の問題は、特捜事件の裁判では毎回と言っていいほど被告側が主張していることだ。にもかかわらず、裁判所は検察の捜査のあり方を認め、そうした強引な捜査によって得られた供述の任意性、つまりその証言が無理矢理言わされたものではなく、自らの意思で語ったものであると認定し、検察のシナリオ通りに事件を認定してきた。その裁判所の姿勢が、特捜検事をして、多少強引なことをやっても、裁判所は大目に見てくれると思わせていたことは否めない。
 そして、決して忘れてはならないのが、メディアの問題だ。今回は検察の記者クラブに加盟する大手メディアまでもが、掌を返したように一斉に検察批判に転じているようだが、過去の特捜事件では彼らが、検察と一体となって検察側のシナリオを報じ、これを喧伝してきたのではないのか。検察問題の重要な一端がメディア問題であり記者クラブ問題なのだ。そして、特捜検察はそうしたメディア報道が醸成する世論の後押しを受けることで、自分たちが作り上げた事件の構図を既成事実化してきた。裁判所もそうした世論や空気の影響を受けた可能性は十分にあるし、実際に裁判官がメディア報道が裁判を歪めていると批判している判決もある。
 しかも、記者クラブメディアは懲りることを知らない。彼らはここに来て、前田検事を捜査している最高検の幹部や捜査担当者しか知り得ない情報を、次々と報道している。従来と全く同じ手法だ。検事が事件の証拠を改ざんしたかもしれないというショッキングな事件であっても、推定無罪の原則は揺らぐべきではない。どうもメディアは自分たちが問題の一部であることが、分かっていないようだ。
 今回の問題が、本質的には特捜検察の構造的な問題に端を発するとはいえ、歪んだ特捜の権限に集るメディアとそれに操作される世論、そして、そうしたことに抗えない裁判所の全てを巻き込んだ日本全体の問題であったことは忘れてはならないだろう。
 今週は緊急特番として魚住、落合両氏と、検察と特捜部の成り立ちを振り返りながら、特捜問題の本質とは何か、そして今変えなければならないことは何なのかを議論した。
(今週はNコメの拡大版をマル激の特別版としてお送りするため、Nコメはお休みします。)

 
魚住 昭うおずみ あきら
(ジャーナリスト)
1951年熊本県生まれ。75年一橋大学法学部卒業。同年、共同通信社入社。検察担当などを経て96年退社、フリーに。著書に『特捜検察の闇』、『冤罪法廷』など。 493_uozumi

 

 
落合 洋司おちあい ようじ
(弁護士、元検事)
1964年広島県生まれ。86年司法試験合格、87年早稲田大学法学部卒業。89年司法修習終了、同年検事任官。94年名古屋地検財政経済係(現・特捜部)、95年東京地検公安部、特捜部(兼任)などを経て00年退官、弁護士。ヤフー株式会社法務部などを経て、イージス法律事務所(現・泉岳寺前法律事務所)設立。東海大学法科大学院特任教授を兼務。編著に『インターネット上の誹謗中傷と責任』など。  

 

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