2012年10月13日
  • 文字サイズ
  • 印刷

反日デモの背後にある革命の遺伝子を見逃すな

興梠一郎氏(神田外語大学外国語学部教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第600回

 日中関係が72年の国交正常化以来、最悪の状態に陥っている。
 中国は国交正常化40年を祝う式典を中止したほか、今週48年ぶりに東京で開催された世銀・IMFの総会に中央銀行総裁と財務相の出席を見合わせた。中国各地では連日激しい反日デモが発生し、日系の商店や企業が軒並み襲われるという事態にまで発展した。中には中国人までが、日本車に乗っていたというだけで無差別に襲撃されるようなケースまで出ているという。なぜ日中関係はここまで悪化してしまったのか。
 中国の国内事情に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は、今回の反日デモの背景には日中関係の内政化、ナショナリズムの政治利用、日本政府の尖閣諸島国有化の3つの要素があると語る。
 確かに、日中ともに国内政治が不安定な状態にあり、外交やナショナリズムを国内政治目的で使いたいのはお互い様なのだろう。
 日本政府が尖閣諸島の所有権を取得したことをきっかけに、中国政府の攻勢は始まっており、反日デモも一気に拡大している。しかし、そもそも国有化の目的は、石原慎太郎都知事の強い意向で東京都が尖閣諸島を購入する動きがあったため、それを阻止することだった。都が島を所有すれば、石原氏はあえてそこに船着き場などの構造物を建設する可能性が高く、そうなれば中国側を刺激し、尖閣を巡る日中間の係争は更にエスカレートすることが避けられない。日本政府は実効支配している尖閣について、下手に騒がずに静かに現状維持を続けることが日本にとっては最良の策と考え、むしろ事を荒立てるのを避けるための国有化だったわけだが、興梠氏は日本側のその意図が中国に伝わっていないのではないかと語る。
 一方で、興梠氏は尖閣以前から中国国内には不満のガスが充満していたことを重視する。近年中国は経済的には大きな発展をみたが、政治的には共産党の一党独裁政治の下で、経済発展を支える労働力として都市に流れ込んだ農民工と呼ばれる農村出身者たちが、安い賃金と差別的な戸籍制度による生活苦に喘いでおり、その数は中国全土で2億人を超えるという。その不満を民主政のない中国では選挙によって解消することができないため、デモという形態を取らざるを得なかったとみる。
 デモには農民工だけでなく、現在の共産党政府に不満を持ちより大きな自由や民主化を求めるインテリ層や、経済成長を優先する現在の路線を共産主義の堕落と受け止める勢力まで参加しているという。政治運動や表現の自由が制約されている中国では、政府批判や共産党批判は御法度だが、「愛国無罪」の合言葉のもと、デモが反日デモの形をとっている限りは、多少の違法行為は厳しい取り締まりを受けないため、そうした勢力が「反日」の旗の下に結集し、同床異夢の抗議行動を行っているのが、現在の中国の反日デモの実態だと興梠氏は言う。つまり、デモが反日の形を取っている以上、国内の不満分子を抑えるためにも、中国政府は日本に対して強行姿勢に出ざるを得なくなっているというのだ。
 中国政府が行き詰まっているのは、対日関係だけではない。中国はこれからも経済発展を続けたければ、低賃金の労働力は必須だ。これまで通り農民工を安い賃金で働かせ続けなければ、世界の工場としての地位を失ってしまう。しかし、それを続ければ当然、格差も広がる。かといって戸籍制度を廃止し移動の自由を認めれば、大量の人口移動を誘発し、都市のインフラが持たない。何が問題かはわかっているが、体制維持のためには、その解決策を実行することが難しい。そのような矛盾が、自由経済と一党独裁を両立させる中でどうにもならないところまで大きくなってきてしまっているというのだ。
 中国政府が今後も富の再分配を行わず、農民工の低賃金を是正しなかった場合、中国の革命の遺伝子が覚醒する可能性も排除できない。選挙で体制を変えられない中国では、市民の不満がある臨界点に達すれば、それは革命にしか行き場がなくなる、と興梠氏は警鐘を鳴らす。
 その場合の革命は民主革命のようなものではなく、むしろより左回帰をする革命になる可能性が高い、と興梠氏は見る。民主化運動に対しては共産党政権は早い段階でそれを力で押さえ込むことが可能だ。しかし、毛沢東の肖像画を掲げ、共産主義の貫徹を求める運動は弾圧しにくい。今もっとも大きな不満を持っている農民や農民工がより純粋な共産主義を求めて蜂起する可能性は、常に念頭に置いておく必要がある。革命による王朝転覆を繰り返してきた中国には、今も革命の遺伝子が埋め込まれている、と興梠氏は言う。
 反日デモの背後にある中国側の事情とは何か。中国の革命の遺伝子とはどのようなものか。日本はどうすべきか。中国側の一連の強硬策は実は共産党政権がそれだけ国内的に追い詰められている証だと語る興梠氏と、ジャーナリストの神保哲生と哲学者の萱野稔人が議論した。

  • ・IMF・世銀総会NGOの視点
    中国の台頭がブレトンウッズ体制にも波及
 
興梠一郎こうろぎ いちろう
(神田外語大学外国語学部教授)
1959年大分県生まれ。82年九州大学経済学部卒業。86年カリフォルニア大学バークレー校大学院修士課程修了。89年東京外国語大学大学院修士課程修了。三菱商事、外務省香港総領事館専門調査員、神田外語大学助教授、外務省国際情報局分析第二課専門分析員などを経て、06年より現職。著書に『中国激流 13億のゆくえ』、『現代中国 グローバル化のなかで』、『中国 巨大国家の底流』など。

 

安全保障関連法
沖縄米軍基地問題
スタッフ募集
  • 登録
  • 解除