2014年4月12日
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小保方問題にすり替わってしまったSTAP細胞騒動の核心部分

八代嘉美氏(京都大学iPS細胞研究所特定准教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第678回

 事実であることが確認されれば、人類にとって歴史的な快挙となり得るSTAP細胞をめぐる論争が、奇妙な展開を見せている。端的に言えば、STAP細胞問題が小保方問題にすり替わってしまったようだ。
 STAP細胞は刺激惹起性多能性獲得細胞(=Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency cell)の英語表記の頭文字を取ったもので、リンパ球などの体細胞を酸性溶液に浸すだけで細胞の機能が初期化され、生物を構成する様々な器官が生成されるという、正に画期的なものとして紹介された。それが事実だとすれば将来、再生医療や難病治療などに新たな道を拓く可能性が期待されるからだ。
 科学誌「Nature」の2014年1月30日号に掲載されたその論文が、これまでの細胞生物学の常識を覆すようなあまりにも衝撃的な内容だったこともあり、STAP細胞そのものもさることながら、日本国内ではその論文の筆頭執筆者だった30歳の女性研究者小保方晴子氏個人にメディアの関心が集中した。
 また、その間その論文は世界的にピアレビューに晒され、多くの疑問が呈されるようになった。
 中でもとりわけ問題視されたのが、小保方氏が執筆した論文部分の写真データに、操作や差し替えがあったとの疑惑が指摘された点だった。
 STAP細胞は本当にあったのか、小保方氏は悪意を持って不正を働いたのか等々、メディア報道が過熱する中、小保方氏の所属する理化学研究所が独自の調査を行い、小保方氏に不正や捏造があったする調査結果を4月1日に発表した。
 そして今週水曜(4月9日)、小保方氏は2ヶ月あまりの沈黙を破り、氏の不正を認定した理研の調査結果に不服申し立てをすることを発表するための記者会見を開催した。平日の午後1時という時間帯にもかかわらず、テレビ局各局が他の番組を中断してまで一斉に生中継をするほど注目度の高いものとなったこの会見で、小保方氏は自らの未熟さと不勉強さを侘びたものの、論文の不備は単純なミスの結果であり、自分に悪意はないことを繰り返し強調した。また、小保方氏はその会見で何度も、STAP細胞は間違いなく存在すると断言した。
 確かに話題性に富んだニュースではあろう。メディアの多くが「割烹着」「ピンクの壁」「リケジョ」などと小保方氏個人にクローズアップしたくなるのもわからなくはない。また、理研が小保方氏の不正を認定したことで、小保方氏だけが悪者にされている現状に違和感を持っている人も多いに違いない。
 そこはメディア報道のあり方や社会と科学の関わり方、そして科学コミュニケーションのあり方など、多くの課題があるだろう。また、理研という税金で運営されている組織のあり方や、科学倫理教育のあり方についても、これを機に議論を深めていく必要があるだろう。
 しかし、それらは何れも副次的な問題だ。この問題は日本を代表する政府系の研究所の研究者が中心となって、科学史に金字塔を打ち立てることになるかもしれない画期的な発見の発表を世界有数の科学雑誌上で世界に向けて行った。しかし、論文に数々の不備、それも本来であれば科学論文にはあってはならないレベルの初歩的な不備が見つかり、もしかすると世紀の大発見がただの勘違いだったかもしれないというところにある。要するに、今回の問題の核心は一にも二にもSTAP細胞の発見は事実だったのかどうかにあるはずだ。
 京都大学iPS研究所の特定准教授で、万能細胞の研究に詳しいゲストの八代嘉美氏は今回は研究のデータを操作している以上、「科学的に見て論文の信頼性は落ちている」と指摘。科学では論文以外に事実を確認する方法はない以上、STAP細胞の存在自体が信頼できないものになっていると語る。
 データの操作そのものは許されないとしても、もしSTAP細胞の発見が事実であれば、小保方氏の功績は揺るがないかのような指摘があるが、八代氏は論文によってSTAP細胞の存在が科学的に証明されていないとすれば、小保方氏はSTAP細胞が存在するという仮説を説いたに過ぎないということになり、そこに一定の功績を認めることにも疑問を呈する。
 八代氏はまた、外的な刺激を与えれば細胞が初期化するという仮説は以前から存在し、それを実現したとする論文も何度か発表されてきたが、いずれも再現性が確認できずに否定されているという。
 とは言え、今ではあたり前になっている定説の多くも、常識破りの仮説から実証に至った例が少なからず存在することも事実だ。ガリレオの地動説も当時は神をも冒涜する大暴論だった。小保方論文の科学的信頼性が揺らいだことで、現時点ではSTAP細胞はあるともないとも言えない、仮説の域を出ないかつての状態に戻ってしまったというが、もしその存在を実証できればそれが世紀の大発見であることは間違いない。
 八代氏は今回の騒動の結果、時間とお金をかけてあらためてその可能性を探ってみようと考える研究者が出てくるモチベーションは下がってしまったのではないかと言うが、例え仮説とは言え、今回の論文で小保方氏らが示した可能性が次の研究や発見に繋がる可能性に期待したい思いを持つ人も少なくはないだろう。
 小保方問題にすり替わってしまった感のあるSTAP細胞問題の本質とは何かを、ゲストの八代嘉美氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
八代 嘉美やしろ よしみ
(京都大学iPS細胞研究所上廣倫理研究部門特定准教授)
1976年愛知県生まれ。2003年名城大学薬学部卒業。05年東京大学大学院医学系研究科医科学専攻修士課程修了。09年同大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻博士課程修了。医学博士。東京女子医科大学特任講師、慶應義塾大学特任准教授などを経て13年より現職。著書に『死にたくないんですけど – iPS細胞は死を克服できるのか』、共著に『再生医療のしくみ』 など。 678_yashiro
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