2014年11月01日公開

5金スペシャル

人工知能が閻魔大王になる日

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第708回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(期限はありません)

ゲスト

東京大学大学院工学系研究科准教授

1975年香川県生まれ。97年東京大学工学部卒業。2002年東京大学大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。工学博士。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学言語情報研究センター客員研究員などを経て07年より現職。シンガポール国立大学客員准教授を兼務。14年9月より人工知能学会倫理委員会委員長。共著に『東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」』。

著書

概要

 5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。今回の5金では「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」の世界でいま何が起きつつあるのか、そしてそれがわれわれの社会にどういう影響を与えるのかを考えた。

 いま、人工知能の研究・開発がブームを迎えているそうだ。

 「人間の知能を代替するようなコンピューターのプログラム」を意味する人工知能は、1956年にアメリカのダートマス会議で初めて使われて以来、何度かのブームが到来したが、そのたびにその時々のコンピューターの性能の限界ゆえに、研究者たちは新たな壁にぶち当たってきたという。しかし、第3次のAIブームを迎えた今、少なくとも情報の処理能力にかけてはコンピューターの性能が人間の脳を遙かに凌ぐようになったことで、新たな地平が開けてきている。

 人工知能が専門の東京大学大学院の松尾豐准教授によると、人工知能研究において最大の課題は、今も昔も変わらず、コンピューターが自立的に「表現を獲得することが出来るかどうかだ」という、。そして、今、その問題をクリアするブレイクスルーが起きつつあるという。

 人間の脳は電気信号によって刺激が伝達されるという仕組みだが、原理的にはその活動をコンピューターによって代替できない理由はないと松井氏は言う。しかし長らく人工知能には人間の脳が持つ認識・学習という機能が実現できないことが大きな壁だった。しかし、2000年代に入り、「ディープラーニング」と呼ばれるブレークスルーによって、コンピューター自身がビッグデータの情報を認識、整理しながら、個別の概念を抽出して学んでいくことが可能になりつつあるという。

 それはちょうど人間が、膨大なデータの中から、例えば「りんご」とはどのようなものかを学んでいくのと同じように、ネット上に存在する無数のデータの中から、コンピューター自身がリンゴとはどのようなものかを学び取り、その概念を獲得することで、その識別か可能になるというものだ。

 これまでは人間が書いたプログラムを実行することがAIの限界だった。ルンバなどのお掃除ロボットのように、いわば人間が教えたことのみを忠実に実行することが、AIの限界だった。しかし、コンピューターが自ら学ぶディープラーニングが可能になったことで、人間が教えていないこともコンピューター自身が学び取ることが可能になっているというのだ。

 その背景にはIT技術の発達が大きく寄与している。いまやパソコンですらギガバイト、テラバイトのハードディスクを備え、高度なCPUによって、かつては何年もかかった膨大なデータの処理が数秒で可能になった。さらにインターネットの普及で、ネット空間に膨大なデータが共有されるようになり、コンピューターが学ぶための環境が整った。

 現に、グーグルやフェイスブックなどのネット企業は、いち早く人工知能の研究に乗り出し、最先端企業や研究者を次々に買収したり、スカウトしたりしている。彼らの狙いは人工知能によって検索やデータ解析の精度をあげることで、広告収入をあげるところにあるのだろうと松尾氏は言う。

 しかし、いくつか倫理的な問題が議論される必要がある。それは、まずそもそも人工知能の技術を、グーグルやフェイスブックなどの私企業が私物化し、われわれ一般市民の行動が彼らによってコントロールされることになる危険性はないのかという点が一つ。そして、もう一つは、仮にある領域まで発達した人工知能が、企業の私的な利益のためではなく、公共的な目的で使われるようになったとしても、果たしてそれはわれわれを幸せにするのかという点だ。

 人工知能やロボットの発達が人間の様々な活動をサポートする分には大いに歓迎だが、これまで人間が担ってきた仕事や役割にまで侵食するとなると話は違ってくる。また、人工知能が人知を遙かに超えた存在になれば、人間の行動をあらかじめ予想し、それをコントロールすることも可能になるだろう。

 松尾氏は技術的には可能性はあるが、実際にそうなるリスクは低いと見る。なぜならば、仮に人工知能が人間をコントロールすることが可能になったとしても、彼らにそのようなことをするメリットがあることとは思えないからだ。人間をはるかに超える英知を身につけた人工知能が、あえてメリットのない非合理的な行動をとるとは考えにくいというのはわからなくはない。しかし、人間よりも遙かに大きな知恵を身につけているのであれば、人間にはわからないような形で人間をコントロールすることもあり得ない話ではないのではないか。

 また、そもそも学習機能を身につけたとはいえ、その学習機能自体は人間が書いたプログラムに則って実行されている。そのプログラムを書く技術者が、人工知能を通じて世界を支配したいと考えても不思議はない。その時は、その技術者自身が人間の運命を自由に左右できる、閻魔大王のような存在になってしまうのかもしれない。もちろん、グーグルだのフェイスブックだのといった企業が、閻魔大王の力を持ってしまうことも、われわれ一般市民にとっては、あまりありがたいことではないように思える。

 インターネットの普及とIT技術の進歩によって、人工知能研究が新たな次元に突入していることは、間違いなさそうだ。閻魔大王が現れる前に、倫理的な問題も含め、考えるべきことを考えておいた方がよさそうだ。人工知能の研究・開発の歴史や現状を参照しながら、ゲストの松尾豊氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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