2015年10月17日
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米大統領選でダークホースが台頭する背景

渡辺靖氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第758回(2015年10月17日)

 来年11月の米大統領選に向けた序盤戦で、ちょっとした異変が起きている。民主・共和両党で、いずれも泡沫、あるいはダークホースと見られていた候補者が大健闘をしているのだ。

 共和党の指名争いでは、アメリカの不動産王として知られる大富豪のドナルド・トランプ氏が、歯に衣着せぬ発言で人気を集め、支持率でトップに躍り出ている。行政経験が皆無なことに加え、人種差別や性差別的な発言を繰り返し、暴論に近い政策論をまき散らしているにもかかわらず、共和党の大本命と見られていたブッシュ前大統領の弟のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事らを抑えて、目下トップを独走中だ。

 また、共和党では世界的な外科医として有名なベン・カーソン氏が、やはり行政経験はなく、政策も一貫性を欠いているにもかかわらず、支持率でトランプ氏に次ぐ堂々の2位につける予想外の健闘ぶりを見せている。

 一方の民主党でも、選挙戦が始まる前から公認候補となることが確実視されていたヒラリー・クリントン元国務長官が、思わぬ苦戦を強いられている。ファーストレディ、上院議員、国務長官などこれ以上ないほどの華麗な経歴と知名度を誇り、本命中の本命と目されてきたクリントン氏だが、全米の世論調査では辛うじてトップを維持しているものの、自らを民主社会主義者と公言し、富裕層への課税強化などを訴えるバーニー・サンダース上院議員が猛烈な追い上げを見せていて、州によってはサンダース候補の支持率がクリントン候補を上回るところまで出てきてる。

 大統領選挙は両党の候補者が指名されるのが来年の7月、本選は11月なので、まだまだ日があるが、序盤戦とはいえ、トランプやカーソンといった政治のずぶの素人が共和党の指名争いでトップに立ったり、サンダースのような全国的な知名度のない候補が大本命のヒラリーを苦しめるといった事態は、異例ずくめのことだ。これは今のアメリカの何を表しているのだろうか。

 トランプ氏やサンダース氏が予想外の高い支持を集めている背景について、アメリカ研究が専門で、大統領選挙の動向にも詳しい慶應義塾大学の渡辺靖教授は、アメリカの有権者たちの間で広がるワシントンの既存の政治に対する幻滅や怒りの存在を指摘する。何かを変えてくれるだろうと期待したオバマ政権は共和党に議会を握られたこともあり、そうした期待に十分応えられていない。また、アメリカは景気が回復しているといわれるが、経済成長の果実は大企業や一部の富裕層に独占され、中流以下のアメリカ人の暮らし向きは一向に良くなっていない。もはや既存の政治には期待できないとの思いが、トランプ氏のようなアウトサイダーへの期待という形で現れていると渡辺氏は言う。

 とはいえ、大統領選挙は長丁場だ。2010年の最高裁判決でスーパーPACと呼ばれる政治団体を通じた無制限の政治献金が可能になったことで、大統領選を勝ち抜くためには最低でも10億ドル(1200億円)の資金が必要になっていると言われている。それを自己資金で賄える大富豪のトランプ氏には資金の問題はないかもしれないが、サンダース氏やその他の候補にとってはこれが今後死活問題となってくる可能性は高い。こと選挙資金集めでは、両党ともに当初から大本命と目されてきたブッシュ、クリントン両候補が、群を抜いて他の候補を引き離している。

 また、次第に選挙戦が本格化してくれば、対立候補やメディアからの攻撃も勢いを増してくるだろう。テレビCMを使ったネガティブキャンペーンも増えてくるはずだ。序盤戦では思わぬ健闘をしたダークホース候補たちが、今後もこのままの調子で支持を広げていくことは決して容易ではないと渡辺氏指摘する。

 むしろ今回の大統領選挙の最大の問題は、これが空前の金権選挙になってしまうことが必至なことかもしれない。それは選挙後、確実にアメリカの政策に影響を与えることになる。誰が大統領に選ばれたとしても、億単位の献金で候補者を支えた大企業や大富豪たちにとって不利な政策を採用することはできないからだ。例えば、ウォールストリートマネーに依存した選挙戦を戦えば、どんなに格差問題が深刻であっても、金融業界や富裕層を厚遇するのは当然のこととなる。

 大統領序盤戦でダークホースが台頭した背景には、アメリカの有権者のどのような政治的意思が反映されているのか。この選挙では何が問われ、それはアメリカの歴史上、どのような意味を持つのか。今後の日米関係への影響も含め、米大統領選の序盤線の戦況について、ゲストの渡辺靖氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
渡辺靖わたなべ やすし
應義塾大学環境情報学部教授
1967年北海道生まれ。90年上智大学外国語学部卒業。92年ハーバード大学大学院東アジア地域研究科修士課程修了。97年同大学大学院人類学部博士課程修了。博士(社会人類学)。ケンブリッジ大学客員研究員、オックスフォード大学客員研究員、慶應義塾大学助教授を経て、06年より現職。著書に『沈まぬアメリカ 拡散するソフト・パワーとその真価』、『アメリカのジレンマ・実験国家はどこへゆくのか』など。 758_watanabe
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