2016年10月22日
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ロドリゴ・ドゥテルテとは何者なのか

日下渉氏(名古屋大学大学院国際開発研究科准教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第811回(2016年10月22日)

 フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、10月25日から、国賓として日本にやってくる。安倍首相との首脳会談に加え、天皇陛下との会見も予定されているという。

 日本に先立ち中国を訪問したドゥテルテは、中国の首脳らを前に唐突に、「フィリピンはアメリカと決別する」と宣言をするなど、突如として中国寄りの姿勢を鮮明に打ち出している。日本の安全保障にも影響を及ぼす事態だけに、首脳会談に臨む安倍首相の外交手腕の真価が問われる。

 しかし、それにしてもこのロドリゴ・ドゥテルテという政治家は一体何者なのか。

 今年6月の大統領就任から、僅か4か月の間に3500人もの麻薬犯罪の容疑者を裁判にかけることなく処刑したかと思えば、強姦やジャーナリストの殺害を容認する発言を繰り返す。かと思えば、フィリピンの人権状況に懸念を表明したアメリカのオバマ大統領を、「Go to hell(地獄へ堕ちろ)」だの「Son of a bitch(畜生野郎)」などとこき下ろし、予定されていた首脳会談をキャンセルされると、今度はアメリカを袖にして中国に付くと言い出す。とにかく、やりたい放題、言いたい放題なのだ。

 ところがそのドゥテルテのフィリピン国内の支持率が、なんと9割にも達するのだという。

 フィリピン研究が専門で名古屋大学大学院国際開発研究科准教授の日下渉氏は、この「ドゥテルテ現象」を、発展途上国にありがちな、必ずしも情報を十分に得ていない貧しい国民が、バラマキによって貧者・弱者の味方を自称するポピュリストに熱狂している一過性のものと考えるのは間違いだと指摘する。

 それはドゥテルテが、フィリピン国民に対して痛みの伴う政策の実施を公言する一方で、麻薬や汚職が蔓延して機能不全に陥っているフィリピン社会の「規律」の回復を標榜すると同時に、社会の基盤を成す「家父長の道徳と秩序」の再興を訴えているところにヒントがあると日下氏は言う。

 毎年7%前後の順調な経済成長を続けてきた結果、安定した中間層が形成されるようになり、フィリピンという国は途上国モデルから新興国モデルに変貌しつつある。しかし、麻薬や汚職に浸食された脆弱な社会インフラは、相変わらず途上国の時のままだ。フィリピン国民の多くが、目先のバラマキによって得られる快楽よりも、規律や社会の秩序が回復されることによる長期的な安定を優先し始めた。そのタイミングにその期待を担って登場したのが、ドゥテルテというキャラの立った稀有な魅力を持った政治家だった。

 暴言を繰り返すドゥテルテの下を熱狂的に支持するフィリピンに今、何が起きているのか。ドゥテルテ現象とアメリカのトランプ現象に共通点はあるのか。ドゥテルテ来日を前に、日下氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
日下 渉くさか わたる
名古屋大学大学院国際開発研究科准教授
1977年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、九州大学大学院比較社会文化学府博士課程単位取得退学、京都大学人文科学研究所助教等を経て、2013年より現職。博士(比較社会文化)。専門はフィリピン研究。著作に『反市民の政治学 フィリピンの民主主義と道徳』など。 811_kusaka

 

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