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2024年05月23日公開

認定基準の根拠が不透明なままでは水俣病は終わらない

ディスクロージャー ディスクロージャー (第20回)

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完全版視聴期間 2024年08月23日23時59分
(あと66日2時間32分)

概要

 水俣病は発生から70年が経った今も、まだ終わっていない。

 熊本県で行われた水俣病の被害者団体と環境大臣の懇談の場で、環境省側が、被害者団体のメンバーの発言中にマイクを切るという対応をしていたことが分かり大きな問題となった。これは伊藤信太郎環境相が謝罪することで一旦は解決したが、そもそもその懇談が何のためのものだったのかまで知る人、あるいは知ろうとする人はあまり多くなかったようだ。日本の高度経済成長の副作用として起きたいわゆる四大公害病の一つである水俣病は、名前こそ広く認知されるようになったが、発生から70年が過ぎようとしている今も、これが未解決の問題であることは意外と知られていない。

 第20回のディスクロージャーでは、水俣病の認定問題と情報公開の関係を取り上げた。

 水俣病は熊本県水俣湾周辺の新日本窒素肥料(現・チッソ)の工場から海や河川に排出された有機水銀によって汚染された魚介類を食べた住民に、重篤な神経症状を伴う水銀中毒が集団発生した公害病で、1956年に水俣病として正式に認定された。差別を恐れて被害を公表できない人も多くいるため正確な罹患者数は分からないが、現時点で32,752人が水俣病の認定を申請しているのに対し、実際に認定を受けた患者はその7%の2,284人にとどまっている。

 これは水俣病以外の公害病や原爆症の認定などをめぐっても同様の問題が起きているが、水俣病の症状が出ている患者が国や県から正式に「水俣病」と認定されるためには、認定基準というものが問題となる。その患者が呈している症状に加えて、住んでいた地域や時期や期間のほか、生活様式なども認定を行う際の判断材料となる。例えばどのくらいの量の魚を食べていたかなどだ。その判断基準から漏れた患者は、明らかに水俣病と思われる症状を呈していても水俣病患者としては認定されず、医療補償などを受けることができない。

 非認定となった患者は当然、その決定を不服とするが、そもそもその根拠となる判断基準がどのような議論の末に定められたものなのか、そこに医学的な根拠はあるのかなどを知らなければ、争うこともできない。そこで行政側からそれらの情報が公開される必要がある。しかし、多くの場合、非認定の決定を不服とする患者は、国や県を相手取って裁判などに訴えている場合が多いため、国や県は裁判で不利になりかねない情報を自ら進んで公開しようとはしない。

 そこで情報公開法に基づく行政情報の開示請求や非公開となった場合の不服申し立て、そして最後の手段としての情報公開訴訟が重要な役割を担うことになる。

 水俣病については、当初1971年に出た事務次官通知に基づいて認定が行われていたが、これが比較的緩いものだったために、認定される患者数が膨大な数に膨れ上がる恐れが出てきた。そこで政府は1977年(昭和52年)に新たな判断基準を設定し、認定のハードルを大幅に上げた。その時に定められた「52年基準」が今も水俣病の認定基準のベースとなっている。

 「52年基準」をめぐっては、それを策定するにあたって参照した医学的な資料などの開示を求める請求がなされたが、資料は廃棄済みという理由から開示されなかった。つまり1971年の基準が6年後に厳格化されていたにもかかわらず、そこに医学的な根拠があったのかどうか、またあったとすればそれはどのようなものだったのかを知る手段は封じられていた。

 その後1995年には政治決着が図られ、水俣病に認定されないものの、一定の症状を呈している患者に対しては、患者側が申請を取り下げることを条件に一部補償を行う和解が図られたが、それに納得しなかった患者の多くは、和解に同意せず、引き続き水俣病患者としての認定を求めている。

 発言中にマイクが切られた懇談会というのは、引き続き水俣病としての認定を求める患者側と政府の間の話し合いの場だったのだ。

 補償をできるだけ低く抑えたい行政と、自らには非がないにもかかわらず公害の被害を受け補償を必要としている患者の間に、利害衝突が起きることは避けられないが、それにしても患者からすれば自分を公害の被害者だと認めようとしない基準に正当な根拠があるのかどうかを知る権利くらいはあるはずだ。ところが、水俣病の場合、行政側は情報公開請求に対し、そのような文書は存在しない、あるいは破棄してしまったことなどを理由に、ことごとく開示を拒んでいる。納得できない患者側が多くいるのも当然のことだろう。

 せっかく情報公開法や公文書管理法ができても、そもそも行政情報は公共の財産であり、行政機関の私物ではないという民主主義の前提が共有されなければ、これらの法は宝の持ち腐れになる。組織の体質やマインドが変わらないままでは、情報公開法や公文書管理法などが本来の目的を達成することはできない。水俣病の認定をめぐる情報公開のあり方をつぶさに見ていくと、行政が都合の悪い文書は最初から作成しなかったり、早々と破棄してしまうなどの行為が横行しているのが見て取れる。何事も、仏作って魂入れずでは意味がないのだ。

 今回は世界的にも有名になった未曽有の公害病である水俣病が、なぜ未だに決着できないでいるのかについて、認定基準をめぐる情報公開という観点から、情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子とジャーナリストの神保哲生が議論した。

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