警察による違法な個人情報の収集からいかに市民を護るか



警察が保有する通称「警察庁秘密個人情報ファイル簿」と呼ばれる個人情報は、捜査に影響を与える恐れがあるという理由さえつけば情報公開法の対象外となり、本人であってもこれを開示させることは困難だった。しかし、2025年6月3日、最高裁は個人情報の開示につながる一歩となり得る画期的な決定を下した。
本番組の司会者でもある三木由希子氏が理事長を務めるNPO法人情報公開クリアリングハウスは、2016年5月から警察がどのような個人情報を収集しているのかに関する情報の開示を求めてきた。2013年、岐阜県警大垣警察署が、風力発電機の設置に反対する市民らが勉強会を開催するにあたって市民らの職業などの個人情報を違法に収集し、それをなんと開発業者側に提供していたことが明らかになった。たとえ警察であっても犯罪捜査とは関係のない個人の情報を無制限に収集することは許されない。しかし、仮に違法な情報収集が行われていたとしても、警察が収集している情報の中身がわからなければ、それを明らかにできない。これは警察による権力の濫用を防ぎ、個人の人権を護るためにも重要だ。
これは警察に限ったことではないが、行政機関に情報の開示を求めると、同じ文書でも請求の仕方によって部分的に情報が開示されたり、すべてが黒塗りになって出てきたりするなどのバラツキが生じることがある。これは開示を求めた文書が、行政による恣意的な「項目」に区分けされ、ある項目の中に1つでも不開示の対象となる情報が含まれていれば、項目全体を非開示とすることが認められていることによって起きる問題だ。
しかし、情報公開クリアリングハウスを原告とする情報公開訴訟では、東京高裁が2023年5月、警察が区分けした項目ごとに情報を開示・非開示とすることを合法と認める判決を下したため、これを不服とした情報公開クリアリングハウス側が上告していた。そして2025年6月3日、最高裁は高裁に審理を差し戻す決定を下した。これは最高裁が高裁判決には問題があったと判断したことを意味する。
最高裁は差し戻しの決定を下すにあたり、重要な補足意見を付けた。それは警察のみならず、今後の情報公開のあり方にも影響を与える可能性のある画期的なものだった。
判決に付された林道晴裁判官と宇賀克也裁判官の補足意見は、対象文書のどの部分が開示・不開示に該当するのかを、できる限り具体的に明示するよう裁判所が働きかけるべきだと主張していた。つまり、行政側が恣意的に項目を作成し、その項目の中に一つでも非開示情報が含まれていれば、その項目全体を無条件で非開示とすることは容認されないと最高裁が判断したことになる。
最高裁が不開示部分と開示部分の区切りを明確にする必要があるとの考えを示したことは、今後の情報公開訴訟のあり方を大きく変える可能性がある。今後の情報公開訴訟では、原告が裁判所に対して最高裁の示した考えに基づいた訴訟指揮を要求することが容易になるからだ。つまり勝手に項目を作成して項目全体を黒塗りにすることはもはや許されず、行政側は開示部分と非開示部分の区分けを明確にし、なぜ非開示部分が非開示に相当するのかを説明しなければならなくなる。
行政文書の不開示範囲の特定について具体的な指針を示した最高裁判事の2つの補足意見はどのようなものなのか。それが今後の情報公開訴訟にどのような影響を与えることになるか。そして、肝心の警察が収集した情報の公開を求める裁判の行方はどうなるのか。情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子氏と、ジャーナリストの神保哲生が議論した。