2016年1月16日
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オバマが怒る米国のゲリマンダーと日本の一票の格差

ニュース・コメンタリー (2016年1月16日)

 日本でも一票の格差をめぐり有識者から選挙区割り改革案が今週提出されたが、同じころアメリカでも、選挙区割りを批判する発言が行われていた。

 オバマ大統領は2016年1月12日の一般教書演説の中で、現在のアメリカの選挙区割りの方法が公正ではないとして、「有権者の意思を反映させるためには選挙区割りのシステムを変えなければならない」と訴えた。

 「政治家が選挙民を選んでいる現在のシステムを有権者が政治家を選べるシステムに変えなければなりません。」オバマ氏がこう呼びかけると、両院議員席からは大きな拍手が起こったが、中には苦笑いを浮かべる議員の姿も見られた、

 一般教書演説そのものは、中東情勢から銃規制の強化、ひいては経済格差の是正といった長期的な問題にまで言及するなど、オバマ氏の大統領として集大成的な色彩の濃い内容だった。しかし、その中にあって、大統領が「政治を変えるための条件」としてあえて2つ挙げた大きなテーマがあった。一つは長らく指摘され続けている政治資金の問題、そしてもう一つが、近年あまり話題にのぼることがなかった選挙区割りの「ゲリマンダー」問題だった。

 ゲリマンダーというのは、選挙区の区割りをする際に、特定の政党や候補者に有利になるような線引きが行われること。1812年マサチューセッツ州のエルブリッジ・ゲリー知事が自分が所属する民主共和党(現在の民主党の前身)に有利になるよう選挙区割りをした結果、一つの選挙区があまりにも歪な形となり、サラマンダーと呼ばれる伝説上の火を吐く龍の形に似ていたことから、自党に有利になるような恣意的な選挙区区割りのことを、知事の名前のゲリーとサラマンダーを足して「ゲリマンダー」と呼ばれるようになったと言われている。

 アメリカでは連邦下院の選挙区割りは、それぞれの州の選挙管理委員会が権限を持つ。(上院は全州でそれぞれ2人と定めらているので区割り問題は存在しない。)州の選挙管理委員会の人事は州政府に権限があるため州知事を押さえた政党が有利になる。現在アメリカの州知事は50州のうち31州を共和党が押さえている。そのため、選挙区割りが共和党に有利になっているのではないかとの指摘が出てくるわけだ。

 実際アメリカの各州の選挙区は、かなり入り組んだ区割りになっている場合が多い。例えば単純に分割すると8議席を4対4で議席を分けることになる州でも、区割りを工夫すれば、5対3や6対2で得票数の少ない政党がより多くの議席を獲得できるような区割りが可能になる場合があるという。

 ちなみに2012年の下院議員選挙では、民主党の総得票数は5336万7021票で共和党の5180万6860を大きく上回っていたが、獲得議席は共和党の234議席に対して民主党は201議席にとどまっている。特に選挙区が複雑に入り組み特にゲリマンダーが酷いとされるノースカロライナ州では、同じく2012年の下院選挙で民主党221万9165票、共和党が214万3118票の得票に対し、獲得議席はそれぞれ4議席と9議席だった。より多くの得票をした民主党が、半分以下の議席しか獲得できなかったことになる。

 得票数と獲得議席の格差は、死票が多く出る小選挙区制(アメリカの下院は全選挙区が小選挙区)の影響もあり、単純にゲリマンダーの影響とは言い切れない面もある。しかし、その一方で選挙区が複雑に入り組んでいることや、州の選挙管理委員会が一定の党派性を帯びていることはアメリカでは既定の事実だ。そもそも小選挙区制というのは、僅かでもより多くの得票をした政党を大勝させる傾向のある制度とも言われていることから、アメリカの得票数の獲得議席の逆転現象に不可解な面があることは否めない。

ブッシュ対ゴアの2000年の大統領選挙で最後にフロリダ州をどちらの候補が取るかで勝敗が決することになった時、フロリダ州の州知事を弟のジェブ・ブッシュが務め、選挙管理委員会が共和党色が強かったためにゴアに不利な決定がなされたのではないかとの指摘は、いまでも語り継がれている。

 現在の日本の国政選挙は一票の格差に2倍以上の格差がついた状態が続いているため、ゲリマンダーよりも遥か手前の基本的な欠陥を抱えているわけだが、一票の格差問題を克服した時に、次なる問題としてゲリマンダーが出てくるのだろうか。その時は日本が一歩進歩したことになるのかもしれない。

 オバマ大統領が最後の一般教書演説であえて問題にあげた、アメリカのゲリマンダー問題と日本との対比などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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