2008年10月18日
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炎上したっていいじゃないか

伊地知晋一氏(ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役)
マル激トーク・オン・ディマンド 第394回

 今年6月頃、毎日新聞をめぐりネットが炎上した。英文ウエッブサイト「毎日デイリーニューズ」のコラム「WaiWai」の内容があまりにも低俗だとして、掲示板などに批判が集中し、それをニュースサイトが報じたことで、さらに炎上に拍車がかかり、最終的に毎日新聞や毎日新聞のウエッブサイトに広告を掲載している企業の多くが、広告を取り下げるという事態にまで発展した。広告を出稿する企業に対しネットユーザーたちからの「問い合わせ」が殺到したためだ。ピーク時からすでに4か月近くが経つが、この「WaiWai」問題はいまだにネット上で燻り続けている。
 この「毎日WaiWai」問題は、2つの意味で特筆される。
 まず一つ目は、ネット上の言論が、いったん炎上状態にまで発展すると、実社会にまでも大きな影響を与えることが明確になったということ。そしてそれは毎日新聞のような大企業に対しても、経営の屋台骨を揺るがしかねないほど深刻なダメージを与える力を持っていることが確認された。
 そして二つ目は、これが言論エスタブリッシュメントを象徴する5大紙の一角を担う毎日新聞が、新たに勃興してきたネット言論の前に完全に屈伏した形で事態が収束している点だ。このことで、言論空間としてのインターネットの力が改めて注目されると同時に、その質や内容、社会的責任や公共性についても、再考すべき点が出てきたということができるだろう。
 ブログや掲示板などで特定の個人や団体・企業に対して誹謗中傷や脅迫を含む批判が殺到する状態を「炎上」と呼ぶ。06年、ホリエモンの「ライブドア社長ブログ」で大炎上を経験し、自身のブログでもいわれのない中傷や憶測による批判のコメントが集中した経験を持つ伊地知晋一氏は、ネットというメディアは一度火が点いてしまったら最後、何をしても殺到する批判を抑えることはできないと、自らの実体験をもとに語る。
 毎日新聞の場合も、当初は英文サイトの低俗な記事に対する素朴な疑問や批判が散発的に掲示板に書き込まれる程度のものだったが、毎日側がそうした批判に真摯に対応しなかったことから、時とともに批判や中傷が雪だるま式に膨れ上がり、最後は毎日新聞に広告を掲載している企業にまでいわゆる電凸(でんとつ=電話突撃)攻撃と呼ばれる抗議行動が、大勢の見ず知らずのネットユーザーの手で行われたり、関係者本人や家族の個人情報がネット上にさらされ、そうした人たちにまで電話やメールが殺到する、深刻な事態にまで至っている。
 無論、週刊誌等に出ている「噂」や「ネタ」といった次元の記事を、真偽の確認もないまま脚色し、しかも世界に向けて英文で配信していたことや、まさに炎上の渦中にそのサイトの責任者を社長や役員に昇進させたこと、お詫び記事の中に報復を示唆する挑発的な内容の文章を潜り込ませていたことなど、毎日側の体制や対応にもかなりの問題があったことは明らかだ。しかし、それにしても、世の中に問題企業は多い。なぜ毎日の問題は大火事にまで発展してしまったのか。
 炎上が起きるためには、その条件や一定のパターンがあり、ある程度炎上のリスクは予想できると伊地知氏は言う。そのため、過去の炎上の多くは、当事者がそれを理解できていないために起きたものが多い。
 また、ネット上の炎上が、特定の世代や、特定の意見に凝り固まった人たちが一枚岩になって起こしているように言われることが多いが、それも伊地知氏は否定する。実際ネット上には多様な意見があり、それぞれが自由に発信している結果にすぎない。伊地知氏はむしろ、団塊の世代や、団塊世代の意見を代表する旧来のマスメディアこそが一枚岩であり、それと異なる意見を取るに足らない少数意見としてしか認識できない感覚の方に違和感を覚えるとも言う。
 ネット言論は、各々が狭い世界の中で固まっているという面はあるが、多様な意見が存在し、それぞれが村を形成している。その村と村の間を互いに行き来をしながらも、他の村の内政には干渉しないという特徴があると、伊地知氏は分析する。
 そしてネットユーザーの多くは、マスメディアや団塊の世代が発する、社会はこうあるべきだという固定観念に、圧迫感や嫌悪感を感じている人が多い。マスメディアが発する通り一遍の解説や見解などの2次情報は、ネットユーザーにとっては単なる押し付けに過ぎず、余計なお世話だというのだ。
 とはいえ、ネット上での個人情報の流出や誹謗中傷、脅迫は絶対に許されることではない。実際に炎上を経験し、鎮静化を待つしかなかったと語る伊地知氏も、現在の日本ではネット上の誹謗中傷に対抗する手段が十分に整備されているとはいえないことに懸念を表す。
 論座や月刊現代などが次々と廃刊され、日本を長年支えてきた旧来の論壇が消えつつある状況の中で、「ネット論壇」や「ブログ論壇」と呼ばれる新たに現出した言論空間は、公共的な論壇の役割を果たすことができるのだろうか。あるいは、そもそも「公共的な言論」「公共的な論壇」という発想自体が、もはや時代遅れの発想なのだろうか。
 ホリエモン騒動の渦中にあって、自らが主宰するウエッブサイトで大炎上を経験し、その後著書「ブログ炎上」の中で、炎上現象を独自の切り口で分析している伊地知氏とともに、炎上と言論空間としてのネット論壇の可能性を議論してみた。

<関連書籍>
『ブログ論壇の誕生』佐々木俊尚氏
『ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性』荻上チキ氏

  • ・三浦和義氏の突然の自殺に対する大いなる疑問
  • ・警察官の目の前で振り込め詐欺
  • ・政教分離問題急浮上の意味
伊地知 晋一いじち しんいち
(ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役)
1968年鹿児島県生まれ。90年日本電子専門学校卒業。97年シノックス営業担当取締役就任、01年
プロジーグループ入社、営業部長就任。02年、オンザエッジ(現ライブドア)入社。03年メディア事業部執行役員上級副社長となり、ポータルサイト「ライブドア」を立ち上げる。06年より現職。08年より鹿児島大学非常勤講師を兼務。著書に、『ブログ炎上』、『CGMマーケティング』など。
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