2016年4月30日
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5金スペシャル
誰が何に対してそんなに怒っているのだろう

岩波明氏(昭和大学医学部教授・精神科医)
マル激トーク・オン・ディマンド 第786回(2016年4月30日)

 次は誰が叩かれるのだろう。

 5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。今回の5金では昭和大学医学部教授で精神科医の岩波明氏をゲストに迎え、蔓延する「不謹慎叩き」と、その背景にある日本社会の不寛容化の原因を議論した。

 ここのところ日本では、常に誰かが叩かれている。原因は不倫だったり、生意気な態度だったり、不適切な発言だったりとさまざまだが、どうも理由は何だっていいようにも見える。社会が常に叩く対象を探していて、いたるところに罠が仕掛けられている。そして獲物が罠にかかると、一斉にバッシングが始まる。

 最近は熊本地震と関連して、被災した女性タレントのブログの記事が炎上したり、義援金を送ったことをSNSに報告したタレントが売名行為だなどとして叩かれたりしている。また、食品メーカーが不倫騒動を起こしたことのあるタレントをCMに起用したところ、抗議が殺到して放送中止に追い込まれたりもしている。

 対象はタレントや有名人だけではない。ちょっとした接客上のミスをネット上で告発されたことがきっかけで、店が閉店に追い込まれたかと思うと、逆に失礼な接客態度を批判した客の書き込みが「偉そうだ」と批判され炎上するなど、今や状況は一般人をも巻き込んだ大バッシング合戦の様相を呈している。

 不正を働いた公人に怒りを覚えることは必ずしも悪いことではないが、「不謹慎」だの「生意気」だのといった理由で、一般の企業や一般人までが次々と吊し上げに遭っている状況は、やや常軌を逸しているようにも見える。われわれは一体何にそんなに怒っているのだろうか。

 精神科医で『他人を非難してばかりいる人たち バッシング・いじめ・ネット私刑』などの著書のある岩波明氏は、ネット上で横行するバッシングに加担している人たちは、実際に何かに怒っているのではなく、他者を叩くことを自分が社会から受けているストレスのはけ口にしている場合が多いのではないかと指摘する。

 以前から他者に対する非難や陰口をストレスに対するはけ口にすることは誰にでもあった。しかし、通常それは井戸端会議や知人間の会話のような、限られた範囲内での出来事だった。ところがSNSなどの登場で、誰もが公に向けて容易に情報を発信できるようになったことで、井戸端会議の陰口が、全世界に向けて拡散されるようになってしまった。

 ネット上のバッシング情報は、マスメディアにとっては格好のネタとなる。早晩テレビや週刊誌がこれを取り上げ、バッシングは社会現象の様相を呈するようになる。これまでもそうしたネタがテレビや雑誌に持ち込まれ、取り上げられることはあったが、今やマスメディアの側が、常にネット上でネタを探し回っている状況だ。

 また、精神科医として今も多くの患者を診ている岩波氏は、そもそも他者を攻撃せずにはいられない人が増えている原因として、われわれが日々社会から受けているストレスが、量的にも質的にも変質してきていることを指摘する。今や、行く先々で「コンプライアンス」が叫ばれ、会社でも大学でも、常に規範性やガバナンスの徹底を強制されるようになった。コンプライアンスを遵守するために、常に煩雑な手続きや細かなルールが決められ、誰もが窮屈な思いをしながら生きなければならなくなっている。その生き辛さは、精神疾患のような形で表面化することも多いが、異常なまでに他者を叩くことに執着する人が増えているところにも、その片鱗を見ることができると岩波氏は言う。

 われわれは一体いつからこんなに不寛容になってしまったのか。事あるごとに大勢の人間が寄ってたかって特定の個人や団体を叩いて溜飲を下げる社会が、健全な社会と言えるのか。日本特有の原因があるとすれば、それは何なのか。常に誰かを叩かずにはいられなくなっている日本の現状とその背景について、精神科医の岩波明氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
岩波明いわなみ あきら
(昭和大学医学部教授・精神科医)

1959年神奈川県生まれ。85年東京大学医学部卒業。東大病院精神科、東京都立松沢病院、埼玉医大精神科などの勤務を経て2012年より現職。昭和大学附属烏山病院長を兼務。著書に『他人を非難してばかりいる人たち バッシング・いじめ・ネット私刑』、『狂気という隣人 精神科医の現場報告』など。 786_iwanami  
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