新国立競技場は本当に必要なのか

マル激・トーク・オン・ディマンド マル激・トーク・オン・ディマンド (第681回)

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公開日 2014年05月03日

ゲスト

建築家・建築エコノミスト

1965年岡山県生まれ。88年早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年同大学院経済学研究科修士課程修了。斎藤裕建築研究所勤務を経て91年設計事務所を設立し、代表に就任。著書に『マンガ建築考 - もしマンガ・アニメの建物を本当に建てたら』、共著に『異議あり!新国立競技場』など。

著書

概要

 東京のど真ん中にまるで宇宙からUFOが舞い降りてきたような風貌の巨大なスタジアムを建造するプロジェクトが、静かに進んでいる。

 これは東京での開催が決まった2020年のオリンピック・パラリンピックのために、東京千駄ヶ谷近くの新宿区霞ヶ丘町にある国立競技場を解体し、そこに新たなスタジアムを建てようというもの。国立競技場を運営する日本スポーツ振興センター(JSC)が、オリンピックを招致する過程で、東京大会の目玉の一つとしてぶち上げたもので、デザインコンペを経てイラク出身のイギリス人建築家ザハ・ハディド氏のデザインを採用することが決定している。

 ところが、まだ招致の段階でアドバルーンのように、しかも拙速にぶち上げた計画だったこともあり、いざ建設しようかという段階にきて、さまざまな問題が噴出している。

 まず、当初1500億円と見積もられていた建設費が一時は3000億円に膨れあがり、それがまた1700億円に縮むなど、そもそも計画の中身自体がデタラメなのではないかといった懸念が生じている。今年7月には現在の競技場の解体工事が始まるというのに、4月末の段階で新競技場の仕様や費用がまだ固まっていないという有様だ。当然、費用の方も最終的にどうなるかわかったものではない。

 しかも、そのデザインがまた奇抜さを極めている。コンペの結果選ばれた「脱構築」で有名なハディド氏のデザインは流線型のUFOが突如として舞い降りてきたかのような風貌で、東京大会の組織委員会会長でもある森喜朗元首相をして、「生のカキをドロッと出した感じのデザイン」と言わしめるような、かなり近未来的なデザインとなっている。

 また、デザインの奇抜さもさることながら、スタジアムの規模が現在の競技場と比べてもはるかに巨大になる点も懸念材料となっている。新スタジアムの屋根の高さは、現在の国立競技場の照明塔の56メートルを遙かに超える約70メートルに及ぶほか、デザインでは現在樹木が植わっている競技場周囲のエリアも丸ごとスタジアムの中に取り込まれている。神宮球場や千駄ヶ谷側からスタジアム方面を見ると、目の前に巨大な壁がそびえ立っているような状態になることが予想されている。

 そもそも「神宮の杜」として親しまれてきた国立競技場周辺は神宮外苑の風致地区に指定されていて、近隣に明治神宮を始め、聖徳記念絵画館、新宿御苑など歴史的な施設も多く、これまで建築家たちが苦心しながら景観を維持してきた地域だった。そこにこのような巨大で近未来的な建造物が建てば、神宮外苑の景観が根本から変わってしまうことは明らかだ。

 このプロジェクトに対してはまず、著名な建築家らから反対の声が上がった。建築家の槙文彦氏が日本建築家協会の機関誌に建設に反対する論文を寄稿したのを皮切りに、多くの建築家や学者らが反対の声を挙げ始めていた。しかし、今後五輪関連の取材で不利になることを恐れたかどうかは定かではないが、今のところマスメディアは総じてこの新国立競技場問題を熱心に取り上げていないため、少なくとも現時点でこの問題が国民的な関心事になっているとは言えない状態にある。

 プロジェクトに反対する建築家の一人でゲストの森山高至氏は、計画の中身もさることながら、プロジェクトの進め方やこのデザインに決まった経緯などに根本的な問題があると指摘する。そもそもなぜ景観の問題などが事前に十分に議論されないまま、このような保存されるべき価値のある地区に巨大なスタジアムを建設する計画が進んでいるのか。国を挙げた五輪招致のかけ声の前に、実際の計画の中身の妥当性などが精査されないまま計画だけが進んでいることが問題だと森山氏は言う。

 さらに今回の競技場新設に便乗するかのように、東京都は神宮外苑地区全体の再開発を目論んでいるのではないかという疑いが出てきている。東京都は独自にその地域の環境アセスメント(環境影響度調査)を行っているが、その調査対象に指定されたエリアは競技場の建設予定エリアを大きく越え、外苑の絵画館周辺から青山通りに至るまでの外苑地域全体がアセスの対象となっている。競技場建設に便乗して、周辺一帯の再開発を目論んでいる疑いがあると森山氏は言う。五輪招致という国をあげての大プロジェクトの陰で、意味不明の利権漁りが続々と起きているようにも見える。

 森山氏はそもそも国立競技場を建て直す必要があるのか、と疑問を呈する。五輪開催に際して新しい競技場が必要になる根拠として、観客8万人を収容できることと、陸上のサブトラックが備わっていなければならないことの2点があげられているが、その程度であれば現行の施設を改修し、競技場内の空きスペースを利用することで十分対応が可能だと森山氏は言う。それが可能であれば、コスト面でも新築の半分以下の費用で済む上に、外苑地区の景観を壊す心配もなくなる。

 五輪招致のお祭り騒ぎの陰で静かに進んでいた新国立競技場建設問題とは何か。そもそも新国立競技場は本当に必要なのか。住民参加のないまま無意味な開発プロジェクトが進んでいく現状に対して、われわれは何ができるのか。ゲストの森山高至氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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