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2015年06月13日公開

国立競技場は設計段階からやり直すしかない

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第740回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1965年岡山県生まれ。88年早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年同大学院経済学研究科修士課程修了。斎藤裕建築研究所勤務を経て91年設計事務所を設立し、代表に就任。著書に『マンガ建築考・もしマンガ・アニメの建物を本当に建てたら』、『異議あり!新国立競技場』など。

著書

概要

 東京オリンピックの目玉プロジェクトの一つとされる新国立競技場の建設が暗礁に乗り上げている。いや暗礁に乗り上げているというよりも、一度も船出ができないまま、下手をするとお蔵入りになる可能性すら出てきていると言った方がより正確かもしれない。

 しかし、何にしても決断を急がなければ、このままでは国立競技場の建設が2019年のラグビーワールドカップはおろか、2020年の東京オリンピックにも間に合わなくなりかねない深刻な事態に陥っている。

 報道レベルでは下村文科相が東京都に新競技場の建設費として500億円を負担するよう求め、舛添東京都知事がこれを一蹴したことが報じられているが、問題の本質はそんなことではない。新国立競技場の建設に伴う様々な問題を指摘し続けている建築エコノミストの森山高至氏によると、現状は、そもそも国際コンペで決定した当初の計画通りに競技場を建設することが本当に可能なのかどうかすら定かではなく、また仮に可能だったとしてもコストがどこまで膨れあがるかがおよそ見当がつかないといった状態にあると指摘する。そのため、旧競技場の解体がほぼ完了している現段階でも、本体工事の受注業者さえ決まらない状態が続いているのだ。

 ここに来て、オリンピックには屋根無しで臨むという話や、8万人収容の計画を5万人規模にまで縮小する案などが乱れ飛んでいるのも、当初計画のままでは実現可能性が見えてこないことが背景にあると森山氏は言う。

 新国立競技場は東京オリンピックの招致が決まる前の2012年に国際コンペを実施し、話題性に富んだド派手で近未来的なデザインを提案したイラク出身の英国人建築家ザハ・ハディド氏の案が選ばれた。しかし、「脱構築」で有名なザハ氏の近未来的なデザインは、実際の建築物に落とし込むのが容易ではなく、いまもって総工費が幾らになるのか、そもそも東京霞ヶ丘の旧国立競技場の跡地にそれを建てることが可能なのかすら、明確な見通しが立っているわけではない。既に旧競技場は解体してしまったのに、である。

 もともと新国立競技場の建設は1300億円の予算が見積もられていた。これはロンドンオリンピックのオリンピック・スタジアムの700億円、北京オリンピックの北京国家体育場の600億円と比較しても、当初から破格の予算だった。ところが、ザハ案をそのまま実現しようとすると3000億円を超えるとの見通しも囁かれるなど、ドタバタが続き、未だに受注業者すら決められない状態が続いている。どの建設会社がいくらであればザハ案を実現できのかについては、現状では大成建設と竹中工務店との間で調査契約を結び、調査を行っている段階であり、まだ全く見通しは立っていないのが現状だと森山氏は言う。

 前回の番組でも森山氏が指摘しているが、そもそもザハ案は日本の消防法との整合性に問題があり、またキールアーチと呼ばれるザハ特有の構造が、予定地の条件と合わないなど、建築設計上無理があることもわかってきた。それを無理矢理建てようとすれば、膨大なコストがかかる上にどれだけ時間がかかるかも定かではないということのようだ。

 ここは誰かがリーダーシップを取り、ザハ案を破棄し、より現実的な計画への転換を図ることが最も現実的だと森山氏は言う。通常のスタジアムの建設であれば、まだ時間は十分に間に合うし、コストも従来のスタジアム並で済む。そもそもオリンピックの招致は決まっているわけだし、IOCのトーマス・バッハ会長もスタジアムのデザインにはこだわらないと助け船を出してくれているのだ。

 ところが、この現実的な選択肢を選ぼうとすると、コンペを実施して有識者に選んで貰ったザハ案を破棄するという決断を下せる人が誰もいないという、ガバナンスの問題が立ちはだかる。直接の監督官庁は文部科学省になるが、文科省は数億、数十億円規模の教育施設の建設は扱ったことはあるが、1000億円単位のプロジェクトとなるとお手上げなのだという。

 今回、日本がオリンピックの招致に成功した背景には、日本人の勤勉さがもたらす技術レベルの高さやプロジェクトの緻密さなどへの評価があったと言われている。ところが、その日本で、オリンピックのメインスタジアムの建設が間に合わなかったり、国際コンペまで行って一度決めたデザインが宙に浮いたままになっているという状態は、日本の信用にかかわりかねない重大な問題と言わねばならない。

 行政官僚が、一度決まったことは何があっても推し進める「暴走列車」的な習性を持っていることは、数々の無駄な公共事業がごり押しされる場面でわれわれはこれまでも繰り返し見てきた。それを仕切れるのは政治しかない。

 ザハ氏は優れたデザイナーかもしれないが、元々、明治神宮の風致地区でも神宮の杜には、ザハ氏の巨大な脱構造的建築物は似つかわしくないとの異論が根強かった。そして、それが構造的にもコスト的にも、そして何よりも時間的に難しいことがわかった以上、政府は一度下した決定に固執せずに、ここで設計変更の英断を下すべきだと森山氏は言う。それができなければ、本当に2019年のラグビーワールドカップや2020年のオリンピックまでに間に合わないなどの最悪の事態も覚悟しなければならないところまで事態は来ている。

 新国立競技場問題の現状と今後の見通し、そしてそのドタバタから透けて見える「日本国の問題」について、森山高至氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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