2006年8月26日
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シリーズ『小泉政治の総決算』その4
幸運か実力か小泉政権が5年続いた理由(わけ)

角谷浩一氏(政治ジャーナリスト)
マル激トーク・オン・ディマンド 第282回

小泉政権の評価については、現在もそして未来においても、意見が分かれるだろうが、政権が5年という長期にわたった点と、過去の政権が取り組むことができなかった大きな課題に取り組んだという意味では、歴史に残る本格政権だったことだけは言を待たない。
 確かに小泉政権下では、安全保障面でテロ特措法や有事法制、日朝会談など長年の懸案事項が進展した他、内政面では郵政の民営化など、55年体制下での既得権益の破壊が大きく進んだ。
  中身の評価は横に置くにしても、派閥の領袖ではないために党内に権力基盤を持たず、自身も必ずしも主要閣僚を経験してきたわけでもない小泉首相の政権が、なぜ5年間も続き、しかもこれだけの大きな仕事をなしえたのかは検証に値する。
 確かに小泉首相にとっては時の運もあった。小泉政権実現の発端となった2001年の自民党の総裁選で受けた党員からの圧倒的な支持も、小渕、森と続いた前政権があまりにも不人気だったため、参議院選挙を控えて党員の多くは、実力の橋本龍太郎元首相よりも人気があり有権者受けする小泉氏を好んだ結果だった。また、政権発足直後にアメリカで9・11の同時テロが発生し、ブッシュ政権との同盟関係の強化が不可欠となっていたことも、小泉政権の外交政策を容易にした。また、最大野党の民主党が不祥事や党内抗争に明け暮れていたことも、小泉政権を更に利する結果となった。
  しかし、2002年の電撃的な訪朝を実現したあたりから、首相の「自民党をぶっ壊す」といったレトリックが国民に圧倒的な支持を受け続けるにつれて、小泉政権は自民党史上希有な本格政権へと進化していった。
 政治ジャーナリストの角谷浩一氏は、小泉政権の力の源泉は、55年体制下で自民党を支配してきた経世会(旧田中派)政治に対する強烈なルサンチマン(怨念)にあったと分析する。小泉政権の政策面での功績を見ると、全てと言っていいほど、経世会の既得権益の破壊を伴う案件ばかりが並んでいるからだ。経世会支配に対する長年の恨みが、「どのボタンを押せば壊れるかをいやというほど知っている」首相を誕生させた。また、経世会の「数の政治」に対抗するためには「人気の政治」が不可欠だったというのだ。
郵政を民営化することで、経世会の強力な集票マシーンでこあった特定郵便局を弱体化させると同時に、公共事業や特殊法人に垂れ流されてきた郵貯や簡保を財源とする財政投融資もコントロールすることに成功した。また、首相官邸のもとに諮問委員会を設置して官邸自らが直接政策を打ち指すことで、族議員たちが跋扈する党内の部会の機能を弱めることもできた。これらはいずれも、小泉改革の柱であったと同時に、経世会政治をぶっ壊す結果につながっている。その意味では、小泉政権とは、自らが恨みを持つ経世会をぶっこわすことが、たまたま日本の構造問題の改革にもつながるという、また別の意味においても幸運な政権だったのかもしれない。
 しかし、運と経世会への怨念だけで、本当にあれだけの長期政権が築けるものなのだろうか。小泉政権がお化けした背景には、それ以外にも何かもっと大きな構造的な変化があったのではないか。角谷氏とともに小泉政権の5年間を振り返り、節目節目で何が起きていたかを再検証しながら、小泉政権の真の力の源泉が何だったかを再考してみた。

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