2008年3月1日
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5金スペシャル
この目を覆うばかりの制度劣化をいかに反転させるか

マル激トーク・オン・ディマンド 第361回

 5回目の金曜日がある月に恒例となった無料放送の5金スペシャル。今月は、ここのところ2人で語り合う機会が少なかった神保と宮台が、ゲスト抜きのマル激オリジナルスタイルで、最新の気になったニュースを思う存分語り合った。
 まずはいわゆる「ロス疑惑」の三浦和義氏のサイパン逮捕を取り上げた。邦人を保護する義務を負う高村外相は逮捕直後の会見で「違和感」を表明しながら、「しかし合法」として「逮捕は問題無し」との立場を取った。しかし、その高村氏が感じた「違和感」こそ、よく考えてみる必要があるのではないか。また、その違和感を誰も声を大にして言おうとしないこの空気の正体は、一体何なのだろうか。
 今回の米国の属地主義に基づく三浦氏逮捕は、確かに法的には問題はないのかもしれない。マスメディア上では、日本が属人主義と属地主義の両方の立場を取っているため、たまたま属地主義のアメリカと縄張りが重複してしまった異例のケースとして片付けられているようだ。中には「制度の穴」などといった表現を使っているところもあった。
 しかし、これを「制度の穴」で済ませてしまっていいのだろうか。一つの主権国家で逮捕、起訴され、一度は最高裁まで争った上で無罪が確定している人物が、同じ罪について別の国で再び裁かれることに、人権上の問題はないのだろうか。近代法の前提として学んだ「一事不再理」は一国の中だけの話なのか。また、日本政府はこの事態を放置していて、いいものなのだろうか。(もしこの相手がアメリカ以外の国だったら、日本の対応は違ったものになっていないだろうか?)
 そもそも今回のような異常事態を招いた原因の一端は、マスコミの過熱報道を背景とした、85年の日本の警察の逮捕に無理があったのではないか。週刊文春の「疑惑の銃弾」に端を発するマスコミの熱狂の中、ポピュリズムに抗しきれなくなった日本の警察は、本来はアメリカで訴追されるべき事件にまで手を伸ばした。逮捕・起訴をしたまではよかったが、直接日本の警察の捜査権が及ばない外国で集めた証拠がお粗末だったために、公判の過程で警察の主張は次々と覆され、結果的に無罪となってしまった。
 もともとこの事件は、共謀罪もありしかも陪審制度のアメリカでは、有罪になる可能性が高かった。当然アメリカ側も機会さえあればこの事件の立件を試みることは、最初から予想できたはずだ。
 それにしても、こうした人権上、法律上の疑問点に目をつぶり、相も変わらず三浦氏の一挙手一投足を追いかけ回すマスコミ報道の幼稚な報道ぶりには、呆れを通り越して悲愴感さえ漂う。日本のメディアがこの27年の間何一つ進歩していないことだけは間違いなさそうだ。
 三浦報道の陰でメディアに黙殺された感がある沖縄密約事件報道に関わる国賠訴訟判決と、その報道ぶりも、とても看過できないようなお寒い内容だった。東京高裁は20日、元毎日新聞記者の西山太吉氏が名誉回復の求めた国家賠償訴訟で、西山氏の控訴を棄却する判決を下した。その中で裁判所は、高度に政治的との理由から密約の存否の判断から逃げたばかりか、事件から20年の時効が過ぎていることを理由に、西山氏の賠償請求権が喪失しているとの立場を取った。
 しかし、沖縄密約については、アメリカの外交文書が25年の免除期間を経て公開されたことで、密約の存在が事実上証明されている。仮に西山氏の情報入手方法に問題があったとしても、西山氏の沖縄密約報道が世紀のスクープであり、密約によって無数の法令違反を犯している当時の佐藤栄作首相、福田赳夫蔵相を始めとする当事者たちの犯した罪が、公務員法違反の西山氏よりも遙かに重いことは明らかではないのか。しかも、現自民党政権が密約はなかったことの根拠としてきた「吉野証言」は、証言者の吉野氏(元外務省米国局長)自身が既に証言を覆しているのだ。
 また20年の時効についても、情報公開制度が整備されていない日本で証拠が開示されないのをいいことに、歴代の日本政府は密約の存在を否定するという「嘘」をつき続けてきた。密約の存在が明らかになったのは、アメリカの外交文書が25年の非公開期間を経て公開されたからに他ならない。そのような状況下で、司法は、20年の時効を理由に密約の存否の判断から逃げることが、許されるだろうか。
 更に言うならば、仮に裁判で西山氏の名誉回復が実現できないまでも、なぜ新聞協会賞を与えるなどの形で、民間や市民社会が率先してこの明らかな不条理の是正を図ろうとしないのか。
 浦逮捕への政府の対応とその報道ぶり、西山太吉事件への司法の対応とその報道ぶり、いずれからも、見えてくるものはもはや目を覆うばかりの制度劣化だけだ。極度に劣化した制度のもとで、敗北主義的心理が日本全体を覆っているこの現状をいかに反転させるのか、目眩さえしそうなその方策を、ナイーブかつ真剣に考えてみた。

安全保障関連法
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