2012年4月14日
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中国の熾烈な権力闘争にわれわれは何を見るか

葉千栄氏(東海大学総合教育センター教授・ジャーナリスト)
マル激トーク・オン・ディマンド 第574回

 まさに三国志さながらの劇的な権力闘争だった。3月15日中国直轄市重慶トップの薄熙来が突如解任された。4月10日には中国共産党中央委員会政治局委員としての職務も停止され、次世代のリーダーの一人と目されていた大物政治家薄熙来の完全失脚が決定的となった。今や大国となった中国での突然の政変に、世界は息を呑んだ。
 中国は秋の共産党大会で、事実上の国家元首である党総書記に習近平が就任することが確定していると見られ、一般には平穏な権力委譲が行われると考えられていた。ところが、今回の事件はその水面下で、熾烈な権力闘争が繰り広げられていたことが、図らずも露わになった。
 中国政治というと毛沢東や鄧(トウ)小平をはじめとする最高権力者個人が、強力なリーダーシップで国政をコントロールするというイメージがある。しかし、中国政治に詳しい東海大学の葉千栄教授によれば、現在の中国の政治体制は9人の共産党中央委員会政治局常務委員を中心とした集団指導体制をとっており、この9人が政治を支配している。そのため、13億人のトップに君臨するこのポストを巡って、熾烈な権力闘争が繰り広げられているというのだ。そして、今回の薄熙来の失脚劇は林彪の亡命劇や毛沢東婦人江青ら四人組事件に匹敵する、近代中国史における大事件だったと葉氏は評する。
 葉氏は、今回の事件の背景に中国社会の将来像を巡る路線争いがあったと言う。そして、薄熙来の失脚は、彼の掲げたビジョンが権力の中枢部によって明確に否定されたことを意味する。薄は重慶市党委書記長として「唱紅(ツァン・ホン)」や「打黒(ダーヘイ)」と呼ばれる運動を指導し、絶大な人気を誇った。それらの運動は、急速に超大国へと駆け上がった中国社会の裏側で巣くう不正や汚職に対する庶民の憤りを代表するものだった。それは貧しいながらも正義が貫かれていた毛沢東時代へのノスタルジーをかきたて、薄は地方都市の英雄となった。しかし、それは党最高指導部の逆鱗に触れることとなった。温家宝首相は薄煕来が重慶市書記から解任される前日に、「文化大革命のような歴史的悲劇が繰り返される可能性がまだ存在する…これまで長きにわたって、重慶市の歴代の政府と広大な人民大衆は、改革建設事業のために多くの努力を注いできた。それは明らかな成果を生んでも来た。しかし、現在の重慶市(中国共産党)委員会と(重慶市)政府は必ず反省しなければならない」と発言し、激しく薄を批判している。
 薄熙来は失脚したが、急速な経済成長によって生じた様々な歪みに対する国民の不満を背景に、薄が英雄ばりの支持を集める様を目の当たりにした共産党の指導部は、今後、鄧(トウ)小平以来中国が邁進してきた経済成長一辺倒の「先富」路線に一定の見直しを余儀なくされるだろうと葉氏は言う。
 屈指の中国エキスパートである葉氏と、文化大革命以来の粛正ともいわれる薄熙来の失脚劇から見えてくる中国政治のダイナミズムと、そこに日本のわれわれが何を見るべきかを、ジャーナリストの青木理と社会学者の宮台真司が議論した。

 
葉 千栄よう せんえい
(東海大学総合教育センター教授・ジャーナリスト)
1957年上海生まれ。82年上海戯劇学院卒業。同年上海人民芸術劇院の俳優となる。85年来日。92年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員、東海大学助教授を経て、2012年より現職。著作に『リアル・チャイナ!』、『チャイナビッグバン』など。

 

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