2014年4月19日
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武器輸出解禁で日本が失うものとは

加藤朗氏(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第679回

 平和主義を国是に掲げる日本が製造した武器が、戦争に使われるようなことがあってはならない。そんな考えから日本は国外に武器を輸出しないという基本方針を1967年以来守ってきた。
 安倍政権は「武器輸出三原則」と呼ばれるその方針を破棄し、武器輸出を可能にする政策への転換を4月1日に閣議決定した。
 武器輸出三原則は1967年に佐藤政権が主に共産圏や紛争国に武器を輸出しない方針を表明し、76年には三木政権が基本的にどこの国に対しても武器輸出は慎むとの方針に格上げして以来、約半世紀にわたり日本が守ってきた一線であり、非核三原則と並び日本の戦後平和主義を象徴する政策でもあった。
 しかし安倍政権は日本を取り巻く安全保障環境の変化を理由に、国会の議論を経ずに閣議決定という形で、重大な政策変更を強行してしまった。
 政府は政策変更のメリットとして、米国をはじめとする友好国と最先端の武器の開発プロジェクトへの参加が可能になることで、高いレベルの技術共有が可能になると説明している。また、これまで地雷除去装置のような人道目的で使われる装置も、法律上は武器として扱われるため、友好国に輸出することができなかったが、それも可能になると、そのメリットを主張する。
 しかし、いかなるメリットがあろうとも、まず日本で作られた武器が戦争に使われて、殺傷される人が出る可能性が生まれることは、戦後政策の大きな転換となることはまちがいない。仮に日本が、紛争当事国への日本製武器の直接の輸出を控えたとしても、政府がメリットとして強調する武器の共同開発プロジェクトに日本が参加すれば、その武器が実際に戦場で使われる可能性は非常に高い。その結果として日本が失うものが何なのかを、政府は十分に精査できているのだろうか。
 しかも、政府が強調するメリットそのものが、どうも怪しいという指摘が根強い。国際的な武器取引や安全保障問題に詳しい桜美林大学教授の加藤朗氏は、今回の政策転換で武器輸出を解禁したところで、そもそも日本の防衛産業には国際的な武器市場での価格競争力がないため、日本の武器が世界で広く流通するような状況にはないと語る。また、共同開発に参加をしても、最先端技術の部分はブラックボックス化されていて、日本にそのノウハウが落ちてくると考えるのは安易過ぎると加藤氏は指摘する。
 また、武器輸出三原則はあくまで基本方針だったために、弾力的な運用がなされてきた経緯があり、今無理にそれを変更する必要性が感じられないと加藤氏は言う。日本は過去にもアメリカに防衛技術を供与したり、インドネシアに巡視艇を輸出するなど、例外を設けて限定的ながら武器の輸出を行ってきた経緯もある。
 どうも武器産業がそれほど潤うわけでもなければ、共同プロジェクトの参加によって最先端の技術やノウハウが日本に落ちてくることも、それほど期待できそうにない。しかも、これまで通りの弾力的な運用で、共同プロジェクトへの参加や特定の国に特定の武器を輸出することは十分に可能だったとの指摘もある。では、なぜ今わざわざ国是として大切にしてきた、平和主義の象徴とも言うべき基本方針を、破棄する必要があったのだろうか。
 加藤氏は、正に武器輸出三原則が「非核三原則とともに平和憲法を具現化する外交上の宣言政策」(加藤氏)だったからこそ、安倍政権にとってそれを破棄することに意味があったのではないかとの見方を示す。つまり、実質的な効果やメリット云々よりも、日本が「武器も輸出できる普通の国」になったことを世界に知らしめるアナウンスメント効果に今回の政策転換の真意があるのではないかと言うのだ。そこに安倍政権が目指す「戦後レジュームからの脱却」という隠れた真意があるのではないかと言うのだ。
 しかし、安倍政権はその政策変更やアナウンスメント効果が、かえって中国や近隣諸国を刺激して、さらなる緊張の拡大や軍拡へと繋がる可能性を精査した上での政策変更だったのだろうか。単に首相自身や政権中枢の「思い」や「見栄」を優先した結果の、向こう見ずな政策だとすれば、日本にとってそのコストは余りにも大きいと言わねばならない。
 国会の議論を経ずして行われた武器輸出三原則の破棄が、日本の国際社会における立場をどう変えるのか。政策変更に本当にそれだけのメリットがあるのか。それによって日本が失うものとは何なのか。ゲストの加藤朗氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
加藤 朗かとう あきら
(桜美林大学リベラルアーツ学群教授・国際政治学者)
1951年鳥取県生まれ。75年早稲田大学政治経済学部卒業。会社勤務を経て81年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。同年防衛庁防衛研修所入所。スタンフォード大学フーバー研究所客員研究員、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員などを経て96年退官。同年桜美林大学国際学部助教授、2001年同教授。08年より現職。著書に『13歳からのテロ問題』、『入門・リアリズム平和学』、『戦争の読みかた』など。 679-kato
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