2015年3月7日
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東日本大震災4周年特別番組
取り残される被災者を作らないということ

長純一氏(石巻市立病院開成仮診療所所長・内科医)
マル激トーク・オン・ディマンド 第726回

 未曾有の被害をもたらした東日本大震災から、この3月11日で4年が経過する。安倍政権は国土強靭化の掛け声とともに、津波被害地のかさ上げや造成、防潮堤などの公共事業を中心とした防災対策を進めているが、それは最優先されるべき被災者の生活再建につながっているのだろうか。今週のマル激はジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、地震と大津波によって壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市を訪れ、復興の現状について、復興の最前線で被災者の生活再建に尽力する医師とともに特別番組をお送りする。
 東日本大震災によって3275人が死亡し、現在も400人以上が行方不明となっている石巻市では、震災から4年が経過した現在も、住む家を失った被災者12,585人が、応急仮設住宅での生活を余儀なくされている。復興公営住宅の建設が進められているが、当初の予想を大きく上回る数の被災者が、仮設暮らしから抜けられない状態にあり、公営住宅の供給が追いついていないという。
 過疎地を中心とした地域医療に長年取り組み、2012年から石巻市立病院開成仮診療所の所長として仮設住宅で暮らす被災者のケアを続けている内科医の長純一氏は、震災から4年経った今もなお、先の見えない不安などから希望を失っている被災者が多く、健康状態の管理・改善とともに、心の問題をケアしていくことが重要になっていると指摘する。
 阪神淡路大震災でも医療ボランティアとして被災地で活動した経験を持つ長氏によると、被災者の自立は、体力や資力がある者から先に始まって、次第に高齢者、低所得者などいわゆる社会的弱者が取り残されていく傾向にあり、石巻でも震災から4年が経ち、自立が困難な被災者が仮設住宅に取り残され始めているという。被災者支援はこれからが本番だと長氏は言う。
 また、地域によって仮設住宅と道一つ隔てた隣地に自力再建を果たした元被災者の新築住宅が並んでいるところもあり、自立を果たした住民にとっても、仮設暮らしの住民にとっても、心理的な重圧を感じざるをえない状態が生まれている。先に自立を果たした者と仮設に取り残されている者との間に生じる目に見える格差と相互に生まれる罪悪感や妬みなどが、被災者の上に心理的な負担としてのし掛かっているという。
 被災地を訪れるたびに、復興の名の下に何十兆円という単位の公的資金が投入される一方で、その多くはいわゆる箱物に回ってしまい、もっとも支援を必要としているところに肝心な支援が行き届いていないとの印象が拭えないのはなぜだろうか。
 その原因として長氏は、日本の災害復興の枠組みの中に、心の問題や生活再建支援の「スキーム」が整備されていないところに問題があると言う。日本の大規模災害にあたっては医療活動や住民支援は民間やボランティア頼りで、政府内にそれを統括する機関もない。災害が起きると基本的に政府には自衛隊を派遣することくらいしか対策がないのが実情だ。そして、復興政策はインフラや箱物が優先され、医療は民間に任せきりになっている。それが災害大国日本の、現時点での災害復興の実力なのだ。
 この問題は20年前の阪神淡路大震災でも繰り返し指摘されていた。しかし、約20年後、東日本大震災に直面してもなお、基本的な問題は解決されていないことが、明らかになりつつある。更に、災害の現場を民間やボランティアに任せてしまった結果、もっとも肝心な災害対策のノウハウやノウハウを持つ人材が行政内に蓄積されないまま、また次の大災害を迎えてしまった。
 震災から4年、被災地はいま、どのような問題に直面しているのか。現在の復興政策のままでいいのか。被災地の最前線で被災者の生活再建のために奔走する医師の長純一氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
長純一ちょう じゅんいち
(石巻市立病院開成仮診療所所長・内科医)
1966年東京都生まれ。93年信州大学医学部卒業。同年より長野厚生連佐久総合病院に勤務。国保川上村診療所長、佐久病院付属小海診療所長などを経て2012年5月より現職。石巻市包括ケアセンター長を兼務。共著に『明日の在宅医療第5巻:在宅医療・訪問看護と地域連携』、『ボランティアとよばれた198人:誰が神戸に行ったのか』など。
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