2015年6月20日
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なぜ違憲の安保法制に党内から異論が出ないのか

村上誠一郎氏(自民党衆議院議員)
マル激トーク・オン・ディマンド 第741回

 どうも自民党の様子がおかしい。

 もちろん自民党には結党当時から自主憲法の制定を主張する、いわゆる「タカ派」の人々も大勢いた。旧民主党の流れをくむ政治家たちだ。しかし、その一方で、かつての自民党では、党のタカ派色が前面に出過ぎるようになると、いわゆる保守本流と呼ばれる穏健派の政治家たちを中心に極端な右派路線に対する異論が巻き起こり、党はある種の自浄作用を発揮して、極端な路線は修正されてきた。その絶妙なバランスこそが、有権者が安心して自民党に政権を託してきた理由であり、正に自民党が国民政党であり続けてきた最大の理由でもあった。

 ところが、2012年に民主党から政権を奪い返してからの自民党は、武器輸出三原則の緩和、NSCの設置、特定秘密保護法、そして集団的自衛権の行使を可能にする安保政策の転換と、過去のどの政権もが為し得なかった右寄りの重要政策を矢継ぎ早に打ち出し、実際にそれを数の論理で実現してきた。

 政治に決断力や実行力があること自体は決して悪いことではない。しかし、一連の政策の多くは、戦後の日本が培ってきたかけがえのない国際的な評価や、我々日本人の多くが国是として大切に守ってきた価値を根底から覆すようなものを多く含んでおり、慎重にも慎重を尽くす必要があるものばかりだった。それを一内閣がいとも簡単に転換することのリスクは計り知れないほど大きい。

 にもかかわらず、自民党内からこうした一連の政策転換に対する異論は愚か、懸念を表す声さえ、ほとんど聞こえてこないのはなぜだろうか。

 現在、自民党にあって、政府が推進する政策に唯一といってもいい反対の声を公然とあげている村上誠一郎衆院議員は、個人レベルでは安倍政権の方向性を批判したり懸念を表明する議員は多いが、それを公然と口にする人が自分以外は誰もいなくなってしまったことを嘆く。

 村上氏は現在、安倍政権が進める安保法制にも明確に反対し、国会の採決では党議拘束を外すよう求めている。実は村上氏は特定秘密保護法に対しても公然と反対の意を表していた党内で唯一の政治家だった。誰も異論を挟めなくなってしまった現在の自民党にあって、村上氏は絶滅危惧種といっても過言ではない、恐らく唯一の「政権にもの申す」勇気のある政治家なのだ。

 その村上氏は日本が集団的自衛権を行使することは明らかに日本国憲法に違反し、それを他国に対する攻撃によって日本の存立が脅かされるような「存立危機事態」に限って認めようという無理な理屈をつけて憲法の解釈を変更することなど言語道断だという。衆院の憲法調査会に参考人として呼ばれた重鎮の憲法学者がこぞって安保法制は憲法違反だと指摘したことからも明らかなように、存立危機事態などというのは絵空事であり、「あくまでも集団的自衛権を行使したいのであれば、安倍首相は憲法解釈の変更ではなく、憲法改正を目指すべきである」と村上氏は真正面から政権批判を展開している。その主張は明瞭明晰な正論としか言いようがないものだ。
 
 しかし、にもかかわらず村上氏以外に自民党内から集団的自衛権を含む安保法制への批判は全くといっていいほど聞こえてこない。むしろ国会の場で安保法制が違憲であると指摘した憲法学者らを批判したり揶揄するような発言が、本来執行部の暴走を諫めなければならない立場にあるはずの党の長老の口から、大っぴらに飛び出してくる始末だ。なぜ自民党から真っ当な批判の声が上がらないのだろうか。

 その原因として村上氏は選挙制度や政党助成金などで、党執行部の権限が強大化してことが指摘する。

小選挙区比例代表並立制の導入によって、選挙区では各候補にとって党の公認を得ることが議員にとって死活問題となる一方で、比例名簿の順位を決める権限も党の執行部に握られるようになり、党の方針に逆らうことが難しくなった。また、民主党に政権を奪われた2009年の総選挙で大敗を喫した現在の自民党には、当選1回、2回の議員が圧倒的に多く、選挙地盤も弱い彼らには公然と執行部を批判する勇気を期待するのは酷な面もあるだろう。

 とは言え、このまま自民党は右路線を突っ走っていくことになるのだろうか。

 村上氏は現在自分は孤軍奮闘の状態にあり、自分の力だけで自民党を変えることは容易ではないが、有権者の多くが現在の自民党の路線の危うさに気がつけば、自民党内部からも声を上げる人が出てくるだろうとの見通しを語る。

 安保法制については、現在国会で野党の追及が行われているが、数を握る与党がその気になれば、いつでも法案を通すことは可能なのが、議員内閣制の現実だ。本当に党内がその考えで一致しているのであればそれもやむを得ないが、実際は多くの異論がありながら、執行部による報復を恐れて誰も声を上げられないというような状態が、民主主義の健全な形であるはずがない。

 自民党はなぜこうも変質してしまったのか。そして、なぜ誰も異論を挟めない政党になってしまったのか。われわれ有権者はそのことをどう受け止めるべきなのか。自民党の変質とその背景などについて、安倍政権と党の執行部に公然と反旗を翻す自民党の村上誠一郎氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
村上誠一郎むらかみ せいいちろう
自民党衆議院議員
1952年愛媛県生まれ。77年東京大学法学部卒業。同年河本敏夫衆院議員秘書。86年衆院初当選。財務副大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革・産業再生機構)などを歴任。当選10回。現在、衆院政倫審会長、党税調副会長。著書に『福島原発の真実・このままでは永遠に収束しない。』、『宰相の羅針盤・総理がなすべき政策』など。 741_murakami
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