2015年07月11日公開

維新案が浮き彫りにする「存立危機事態」の実相

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概要

 100時間を超える審議を経たとして、政府の安全保障関連法案は来週中にも衆院での採決が取りざたされるが、依然として新たな武力行使の基準となる「存立危機事態」が何を指すのかは不透明なままだ。

 そうした中、7月8日、維新の党が政府案の対案として独自の安全保障法案を提出した。この法案自体は自民・公明の与党が賛同していないこともあり、可決、成立する可能性はほとんどないと見られる。しかし、維新案に政府・与党が賛成しないことが決まったことで、逆に維新案と政府案とを対比すれば、これまで全く霧の中にあった政府案の武力行使基準の意味が、逆説的に浮き彫りになるという効果は期待できそうだ。

 このたび提出された維新案は、新たに「武力攻撃危機事態」という事象を設けることで、日本を守るために活動する米軍が攻撃を受け、更に日本が武力攻撃を受ける可能性が高いと考えられる時は、自衛隊による武力の使用を可能にするというもの。

 現行法では、日本が実際に武力攻撃を受けた場合にのみ、必要最小限の武力行使が可能とされており、武力攻撃を受ける可能性が高い「武力攻撃切迫事態」では、防衛出動はできるものの実際の武力行使は認められていなかった。日本はあくまで自国が武力攻撃を受けた場合にのみ個別的防衛権に基づいて最小限の武力が行使できるというのが、現行法の許容範囲であり、現在の憲法解釈となっている。

 維新案は現状では米軍を意味する「条約に基づき我が国周辺の地域において我が国の防衛のために活動している外国の軍隊」が攻撃を受ければ、まだ日本に対する武力行使が行われていない段階でも、その蓋然性が高いと判断された場合、武力行使も可能にすることを謳っており、現行法よりも武力行使基準を大きく緩和するものと言える。

 米軍が攻撃されただけで武力行使を行えば集団的自衛権の行使となるのではないかとの指摘もあるが、同法案を支持する慶応大学名誉教授の小林節氏は、日本を守るために活動する米軍への攻撃は自国に対する攻撃と同等のものと解することができるため、維新案は集団的自衛権の行使を容認するものにはならないとの見方を示した。

 いずれにしても、この法案が成立する見込みは今のところ皆無に等しい。しかし、自民党は武力行使の基準が維新案では厳しすぎると判断し、維新と協力の下での修正案の提出は見送ることを決めている。

 つまり、100時間の審議の大半が費やされた、政府案が謳うところの「存立危機事態」とは何かの問いに対して、少なくとも維新案に示された「日本に対する武力攻撃が行われる蓋然性が高い」だけでは条件が厳しすぎると政府は判断していることが明らかになったことになる。逆に言えば、日本に対する武力攻撃が行われるような切迫した事態でなくても、「日本の存立を脅かし、国民の生命、財産や幸福を根底から覆す」事態というのがあり得ると政府は考えているということになる。

 維新案が浮き彫りにする政府の「存立危機事態」の背後にある真意とは何かを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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