2017年10月14日
  • 文字サイズ
  • 印刷

アベノミクスこそがこの選挙の最大の争点だ

河村小百合氏(日本総研上席主任研究員)
マル激トーク・オン・ディマンド 第862回(2017年10月14日)

 安倍政権は2012年に政権奪回以降、国政選挙のたびにアベノミクスの継続を選挙の争点に掲げ、毎回勝利を収めてきた。ところが今回の総選挙では消費税の使い道と北朝鮮を選挙の争点に自ら設定し、アベノミクスを選挙の争点にすることをあえて回避している。アベノミクスの最大の眼目である「異次元」の金融緩和が今も継続中であるにもかかわらずだ。

 安倍首相は10月8日に日本記者クラブで行われた8党党首討論会で、アベノミクスの成果で日本の雇用は改善し、GDPの伸びや株高などが実現していることを強調している。大きな成果があがっていると胸を張るのであれば、なぜ首相はこの選挙でアベノミクスの継続の是非を問わなかったのだろうか。

 アベノミクスの果実が大企業や富裕層に偏り、経済格差を拡大させているとの批判は根強いが、とはいえ首相が指摘するように、安倍政権発足後、企業収益やGDP値が伸びていることは事実だ。

 しかし、それは大変な犠牲の上に成り立っていると、中央銀行の政策に詳しい日本総研上席主任研究員の河村小百合氏は指摘する。それは単なる格差の拡大にとどまらず、近い将来、国民に膨大なツケが回ってくるリスクが日に日に大きくなっていると河村氏は言う。

 黒田バズーガと呼ばれる未曾有の金融緩和に続いて、マイナス金利まで導入して経済を刺激しても、2%おろか僅かなインフレすら起こせない事態に業を煮やした日銀は今、年間80兆円にものぼる国債や株式の買い付けを行うことで市場に膨大な資金を投入している。しかし、これが日銀のバランスシートの異常な肥大化を生み、日銀が支え切れる能力を超えているために、破綻のリスクが現実味を帯び始めていると河村氏は警鐘を鳴らす。

 また、日銀が事実上の財政ファイナンスによって人為的に株価を釣り上げているため、株価市場は20年ぶりの高値に沸いている。しかし、日銀の買い支えによって釣り上げられたこの株価は、企業の現実の経営実態を反映させたものとは到底言えない。企業努力をしないでも高い株価が維持できると、企業側に経営努力や合理化のインセンティブが働きにくくなり、ガバナンス欠如による数々の不祥事の遠因になっていると見ることもできる。

 欧州諸国やアメリカもリーマンショックから立ち直る過程で金融緩和政策を採用してきたが、彼らが常に出口を意識しながらコントロールされた金融緩和を行ってきたのに対し、日本の金融緩和は一度走り出したら止まらない暴走列車の様相を呈していると河村氏は言う。その姿に河村氏は先の大戦の失敗がダブって見えると嘆くが、あとさきのことを考えずに暴走すれば、河村氏が指摘するような「経済敗戦」が現実味を帯びてくる恐れもある。

 日本がこのままアベノミクスを継続するとどうなるのか。日銀はこれまでどこの国も経験したことのないサイズにまで肥大化した巨大なバランスシートを支え切れるのか。アベノミクスに安全な出口シナリオなるものは存在するのか。最後にそのツケが回ってきた時、国民はどれだけの負担を強いられることになるのか。

 そもそもアベノミクスによる量的にも時間的にも異常なまでの金融緩和は、金融の実務を理解していない安倍政権が、人事権を盾に本来は日銀の専権事項であるはずの金融政策に手を突っ込んだことから生じた歪んだ政策だったと指摘する河村氏に、アベノミクスの現状と膨れ続けるリスク、そして近い将来予想される影響を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。

 
河村 小百合(かわむら さゆり)
日本総合研究所上席主任研究員
1988年京都大学法学部卒業。同年日本銀行入行。91年日本総合研究所入社。主任研究員を経て2014年より現職。著書に『欧州中央銀行の金融政策』、『中央銀行は持ちこたえられるか-忍び寄る「経済敗戦」の足音』など。 862_kawamura

 

  • 登録
  • 解除