政治権力に屈し自身のジャニーズ問題とも向き合えないNHKに公共メディアを担う資格があるか
ジャーナリスト、元NHKチーフ・プロデューサー
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現代のベートーベンとまで呼ばれた「全聾の作曲家」佐村河内守氏が、自分では曲を作っておらず、ゴーストライターに曲を作らせていたうえに、実は耳が聞こえていたのではないかとの疑惑まで持ち上がり、波紋が広がっている。
佐村河内氏が釈明を行っていないため、未だ詳細は不明だが、他人に書かせた曲を自分の曲として発表してきた行為だけを以てしても、十二分にファンを裏切る行為だったとは言えるかもしれない。しかし、佐村河内氏をここまでブームの主役に押し上げたことの責任の少なくともその一端がメディアの側にもあったことも忘れてはならないだろう。
メディアは自分たちも騙されたなどと被害者面をしている場合ではない。佐村河内氏の嘘を拡声器よろしく広め、結果的に多くの視聴者や読者を騙した加害者としての責任は逃れられない。
中でも佐村河内氏を一躍全国区で有名にしたNHKスペシャルや朝のワイド番組「あさイチ」の責任は重い。とりわけNHKスペシャルでは佐村河内氏に長期間密着をしている。その間の取材の過程で、佐村河内氏自身が実は曲を書いていないこと、実は譜面を読めないしピアノ演奏についても初歩的な能力しか持ち合わせていないこと、程度のほどはわからないにしても、実際にはある程度は耳が聞こえていることなどが全くわからなかったとは考えにくい。もしそうだとすれば、まともな取材をしていなかったと批判されても反論できないだろう。
他のメディアにとっては、一旦Nスペで大大的に取り上げられ、時の人となってしまった話題のスターに対して、その能力を疑ってかかるような取材を行うことは、氏が有名になればなるほど難しくなる。
2月6日には18年間佐村河内氏のゴーストライターを務めていた作曲家で桐朋学園大非常勤講師の新垣隆氏が記者会見を行い、18年間で20曲を700万円の対価と引き替えに提供していたことや、佐村河内氏が実は譜面を書けないこと、通常、氏とは普通に言葉でやりとりしていることなどから、全聾のはずの佐村河内氏が実際は耳が聞こえていると思うなどの仰天発言まで飛び出した。
被爆二世として「HIROSIMA」と題した交響曲を発表し多くの賞を受賞したり、義手でヴァイオリンを弾く少女に曲を捧げるなどして話題をさらった上に、あろうことかその曲が7日開幕したソチオリンピックで男子フィギュアスケートでメダルが期待される高橋大輔選手が使用することになっていたりして、当分衝撃は収まりそうにない。
一方、メディア周辺では日本テレビが放送中の児童養護施設を扱った「明日、ママがいない」をめぐる論争も熱を帯びてきている。5日には日本テレビに番組の放送中止の申し入れをしていた全国児童養護施設協議会らの幹部らが記者会見を行い、日テレ側が社会的養護への理解が不足していることを認めた上で、番組内容を改善するよう求めている。
確かにフィクションに過ぎないドラマで、児童養護施設で育った子どもたちに対する差別や偏見を助長したり、親に捨てられたり暴力をふるわれたりした過去を持つ子どもたちが、辛い経験をフラッシュバックするような描写はできるだけ避けるべきだろう。
しかし、どんなテーマを扱う場合でも、それが社会問題に焦点を当てている場合はなおさら、それを見ることで辛い過去を思い出したり、嫌な思いをする人が出ることは避けられない面がある。東日本大震災を風化させないためにも、震災関連の報道を続けることは重要だが、それを見て当時の辛い経験を思い出す人は多いに違いない。
辛い経験を思い出す人がいるような内容の表現活動はどこまで許されるのか。一人でも傷つく人を出してはならないのか。そのような基準を導入した場合、どのようなマイナス面が出てくるのか。尊重されるべき表現の自由と、保護されるべき対象との線引きはどのような基準で行われるべきかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。