自民党総裁選から読み解く日本の現在地とその選択肢
法政大学法学部教授
支持率の低迷にもかかわらず岸田政権は、トラブルが相次ぎ国民の強い不信を買っていたマイナンバーカード問題でも、来年秋に予定されている現行の保険証の廃止時期を延期する譲歩を最後まで見せなかった。そして、今週は地元の住民や漁協の反対を押し切る形で、福島第一原発にたまり続けている放射性物質を含んだ汚染水の海洋放出を8月24日にも決行するという。
決断力がないと揶揄されてきた岸田政権のここに来ての異様な強気の背景には、党内最大派閥の旧安倍派が依然として安倍氏に代わる指導者を据えることができず、かといって他の派閥にもこれといった有力な対抗馬が出てきていないことからくる余裕がある。少なくとも来年秋の総裁選と再来年の衆参の選挙までは総理総裁の地位が脅かされる心配がないため、多少支持率が下がろうとも余裕の政権運営が可能だ。
また、一向に存在感を見せることができない野党の体たらくも、岸田政権に更なる余裕を与えている。9月2日に予定されている国民民主党の代表選挙では、玉木雄一郎代表と大臣経験もある前原誠司元民主党代表の一騎打ちとなる公算が高いようだが、ここまでの情勢分析では玉木氏の圧勝が予想されている。非自民・非共産の野党共闘論者の前原氏が勝利すれば野党再編の方向に政局が向かう可能性もあったが、予算案に賛成し内閣不信任案には反対する玉木代表の下では、野党再編はおろか野党共闘への展望も開けていない。
それもこれも岸田政権にとっては追い風になっている。しかし、追い風といっても岸田政権の何かが評価されているわけではないため、内閣支持率は低迷し、不支持率が支持率を大きく上回ったままだ。要するに、敵が見当たらないことが政権安定の最大にして唯一の理由なのだ。
これからも日本の政治はここまま惰性で流れ続けるのか。どこかに大きな変革の波が待ち受けているのか。エッフェル姉さんや汚染水の海洋放出、集団指導体制に甘んじる安倍派の内情など政府・自民党内の動きから、国民民主党の代表選、立憲内で小沢一郎氏が仕掛ける野党共闘の仕掛けなど、政界の最新の動きについて、政治ジャーナリストの角谷浩一とジャーナリストの神保哲生が議論した。