2011年11月5日
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TPPで食の安全は守れるのか

藤田和芳氏(大地を守る会会長)
マル激トーク・オン・ディマンド 第551回

 野田政権の重大な政治課題となっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が、実際は農業や貿易以外にも多くの分野に影響を及ぼす包括的な経済協定であることが、日に日に明らかになっているが、その中には食の安全基準も含まれる。現在の日本の食の安全基準には遺伝子組み換えの表示義務や狂牛病(BSE)の全頭検査など、国際標準よりも厳しいものが多いが、日本がTPPに参加した場合、これが非関税障壁とみなされ、安全基準の緩和を強いられることになる可能性が高い。
 無農薬・減農薬食材の宅配事業の草分け的な存在である大地を守る会の藤田和芳会長も、それを心配する一人だ。藤田氏は、昨今のTPPをめぐる論争は目先の利益、不利益に振り回され、日本の食の安全保障をどうしていくのかという大きな視点が欠けていると指摘する。
 TPPに参加すると、現行の日本国内の食品安全基準は他の協定加盟国と平準化される。この分野では総じて他国より食品の安全基準が厳しい日本が最も大きな影響を受ける。
 今や日本では当たり前になっている、食品の原産地表示の義務づけや残留農薬基準、遺伝子組換え食品の表示義務、食品添加物規定とその表示義務、牛肉の全頭検査などは、いずれも安全な食品を求める消費者達の努力によって、時間をかけて確立されてきた、いわば日本社会の財産だと藤田氏は言う。しかし、これらの基準が他国のものに平準化されると、消費者は従来の食品を選ぶための基準を失うことになる。それはこうした基準を通じて日本の消費者と生産者との間に築かれてきた信頼関係をも破壊する。
 この問題は農業従事者のみならず、全ての消費者が影響を受ける重大な問題でもあるにもかかわらず、今のTPPをめぐる議論では、こうした安全基準を失う危険性についてほとんど議論がなされていない。そこに藤田氏は危機感を覚えるという。
 食品の安全基準と同時に、食料安全保障も脅威にさらされる。現在の日本のカロリーベースでの食料自給率は40%と先進国中最低水準にあるが、TPPに参加することでそれが14%まで下がる可能性があることを農水省が試算している。今後、世界人口の増加や気候変動などが原因で世界的な食料不足に見舞われた時、14%の自給率で日本は食料安全保障を守れるのか。そのような問題がほとんど議論さえされていない状態で、政府が性急にTPPへの参加を決めようとしていることには大いに問題があると藤田氏は言う。
 食の安全と自由貿易は果たして両立できるのか。生産者、消費者の両方の立場を尊重しながら食の安全をビジネスとして実現させてきたソーシャルビジネスの先駆者である藤田氏と議論した。

  • ・政府高官が記者会見で放射能汚染水を飲んでみせる国
  • ・なぜTPP参加をめぐる対立は先鋭化するのか
 
藤田和芳ふじた かずよし
(NGO大地を守る会会長、株式会社大地を守る会代表取締役)
1947年岩手県生まれ。70年上智大学法学部卒業。出版社勤務を経て、75年NGO大地を守る市民の会(現・NGO大地を守る会)を設立。83年より現職。著書に『畑と田んぼと母の漬けもの—「大地を守る」社会起業家の原風景』、『有機農業で世界を変えるーダイコン一本からの「社会的企業」宣言』など。 551_fujita

 

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