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2014年07月05日公開

戦後レジームからもっとも脱却できていないのは安倍総理、あなた自身です

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第690回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1977年東京都生まれ。2001年早稲田大学政治経済学部卒業。03年一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。06年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位修得退学。日本学術振興会特別研究員、多摩美術大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師などを経て12年より現職。学術博士(社会学)。著書に『永続敗戦論 ? 戦後日本の核心』、『未完のレーニン ? 「力」の思 想を読む』など。

著書

概要

 やっぱり安倍さん自身が戦後レジームから抜けられてなかった。
 安倍政権によって行われた集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更は、通常2つの理由で強い批判にさらされている。
 それはまず、そもそも今そのようなことを行わなければならない切迫した必要性も正当性もない中で、単に安倍晋三首相個人の情念や思い入れに引きずられてこのような大それた事が行われているのではないかという、「反知性主義」としての批判が一つ。そして、もう一つが、平和憲法として世界に知られる日本国憲法の要諦でもある憲法第9条の解釈の変更は事実上の憲法改正に相当することは明白で、それを私的な有識者懇談会に提言させ、友党公明党との「ぎりぎりの交渉」なる茶番劇の末に閣議決定だけで強行してしまうことは、明らかに憲法を蔑ろにすると同時に民主プロセスを破壊する行為であり、立憲主義に反するのではないかという批判だ。
 それらの批判はいずれも正鵠を得ていて重要なものだ。しかし、それとは別の次元であまり指摘されていないより重要な点がもう一つあるように思えてならない。それは戦後レジームからの脱却を掲げていたはずの総理にとって、このような行動が正当化できているのかということだ。
 戦後レジームからの脱却という場合の戦後レジームとは、恐らくこんな意味だろう。総力戦に負けた日本はアメリカ軍による国土占領の屈辱を受け、武力行使を放棄する条文を含む屈辱的な憲法までのまされた上に、日米安保条約なるもので未来永劫アメリカの属国として生きていく道を強いられた。また、特に近年になって、社会制度面からもアメリカ的な制度を押しつけられ、日本の伝統的な社会制度が崩壊の淵にある。
 となると、そこから脱却するために次に来るフレーズは明らかなはずだ。今こそ日本はそのような戦後レジームから脱却し、自らの意思で独自の憲法を制定し、日米安保条約を破棄しアメリカへの軍事力への依存を減らすとともに、アメリカと対立・緊張関係にあるロシアや中国と友好的な関係を樹立し、アメリカ一辺倒の偏った外交からより均衡の取れた外交へとシフトしなければならない。(また戦後のアメリカ主導の世界秩序を代表するブレトン・ウッズ体制、すなわちGATTやIMF・世銀、そしてWTOに代表される自由貿易体制からの脱却云々にまでここで触れるのはあえてやめておこう。何と言っても日本がその体制の最大の受益者だったのだから。)
 ところが、今回行われた解釈改憲はどうだ。首相が自ら指さしながら示したポンチ絵には、日本人を救助したアメリカの艦船が描かれている。どこかの国で有事が起き、避難する日本人を乗せた米軍の艦船が攻撃された時、それを守ることができるようにするためには、集団的自衛権の行使が必要だと安倍首相は繰り返し強調する。
 集団的自衛権というのは自国が攻撃された時に反撃する権利を意味する個別的自衛権に対し、自国が攻撃されていない場合でも武力を行使する権利のことを意味する言葉だが、そこでいう他国がアメリカのことを念頭に置いていることは明らかだ。とすると、今回の解釈改憲というのは、早い話が今よりももっとアメリカに貢献するために日本は憲法まで変えようとしていることを、首相が率先して喧伝していることになる。しかもそれを、首相があれだけこだわりを見せ、自民党が党是にまで謳っている憲法改正という正攻法ではなく、まるで裏口入学でもするかのような憲法解釈の変更の閣議決定という姑息な手段によって実現するのだという。そこに見えてくるのは、アメリカを助けるためには憲法を蔑ろにすることも裏口を使うことも何でもできてしまう日本の無様な姿以外の何ものでもないのではないか。これが安倍総理が「戦後レジームからの脱却」と大見得を切ったものの正体だったのか。
 『永続敗戦論』の著者で、戦後の対米従属問題や政治思想に詳しい文化学園大学助教の白井聡氏は、現在の日本の閉塞状態を「敗戦レジーム」なるものに永続的に隷属することから起きているものだと説く。「敗戦レジーム」とは、総力戦に敗れた日本は本来であればドイツと同様に、それまでの国家体制は政治も経済も社会もすべて木っ端微塵にされ、既得権益など何一つ残っていないない状態からの再スタートを余儀なくされなければならなかったはずだった。しかし、日本を占領統治したアメリカは対ソ連の冷戦シフトを優先するために、あえて天皇制を含む日本の旧国家体制の温存を図ったために、A級戦犯などほんの一部の例外を除き、日本を絶望の淵に追いやる戦争に導いた各界の指導者たちが、平然と戦後の日本の要職に復帰することが許されてしまった。そして、それもこれもすべてアメリカの意向、アメリカの都合だった。そして、その旧レジームの担い手たちに対する唯一絶対の条件が、アメリカの意向に逆らわないということになるのは、当然のことだった。
 今日本を動かしている指導層の大半は、その時に「敗戦レジーム」を受け入れることで権力を手に入にした人たちの子や孫たちである。自民党に至っては、議員の4割以上が、そして先の総裁選挙の全候補者が2世、3世議員だったが、それは決して偶然の現象ではない。また、今回の集団的自衛権の解釈改憲を主導した外務省も外交官2世3世が多いことで知られる。彼らは実益面もさることながら、彼ら自身のメンタリティや行動原理の深淵に最初から「敗戦レジーム」が埋め込まれており、自分たちにとってもっとも合理的に行動することが、「敗戦レジーム」を強化するにつながるが、無論彼ら自身にそのような自覚はない。
 白井氏は続ける。この「敗戦レジーム」を永続させるシステムが残る限り、日本は本当の意味での独立を勝ち取ることはできないし、真に日本のことを思う政治家が現れたとしても、多勢に無勢の状態では敗戦レジームの担い手たちによって足を引っ張られ、失脚させられることが目に見えている。それは、そういう政治家こそが、敗戦レジームの担い手たちにとっては最も大きな脅威となるからだ。
 幸か不幸か「敗戦レジーム」はある時期、空前の経済的繁栄をもたらした。アメリカにとって日本を経済的に富ませることが、日本の共産化を防ぐ最善の手段だったこともあるが、日本人の多くが、実は戦後レジームの矛盾に薄々気づきながら、経済的は豊かさと引き替えに、それを見て見ぬふりことを覚えてしまった。しかし、冷戦が終わり、「敗戦レジーム」が前提としてきた外部環境は既に根底から崩れている。アメリカは自らの国益をむき出しにして日本と対峙するようになったばかりか、今や軍事同盟関係にある日本よりも、その日本と緊張関係にある中国を重視し始めているようにさえみえる。しかし、日本では「敗戦レジーム」の担い手たちが依然として大手を振って歩き、「敗戦レジーム」の行動原理から抜けることができそうにない。
 今問われていることは、われわれはこれから先も問題から目を背け、「敗戦レジーム」を継続するのか。問題を正視するということは、今あらためて日本が総力戦に敗れたという事実と向き合い、それを認めた上で、アメリカから属国扱いされることと引き替えに、免罪されてきた他国との様々な懸案に自主的に取り組んでいくことが求められる。敗戦レジームに慣れきってしまったわれわれ日本人にとって、恐らくそれは辛く痛みの伴う行為になるだろう。しかし、「敗戦レジーム」を続ける限り、日本に未来はない。
 「敗戦レジーム」のもう一つの特徴は、誰も責任を取らない体制だ。そしてそれは政治家に限らず、われわれ市民の側についても言えることだ。われわれの多くが、国や自治体や共同体の意思決定に一切参加もせずに、一部の人間に汚れ仕事を押しつけておきながら、何か問題があると文句を垂れるという態度を取ってきた。悪弊を変えることは容易ではないが、少なくとも手の届くところから意思決定に参加することが、変化への第一歩となる可能性を秘めているのではないか。
 「敗戦レジーム」脱却のための処方箋をゲストの白井聡氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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