2016年12月17日
  • 文字サイズ
  • 印刷

トランプ政権を甘く見てはいけない

春名幹男氏(早稲田大学大学院客員教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第819回(2016年12月17日)

 アメリカではトランプ政権の閣僚候補がほぼ出揃い、1月の新政権発足を待つばかりとなった。

 ウィスコンシン州で行われていた投票の再集計の結果、トランプの勝利は変わらないことが確定した。また、ミシガン州とペンシルベニア州の再集計請求も、州の裁判所によって退けられた。

 オバマ政権がロシアによるハッキングを通じた選挙への介入を公表した後だけに、各州で投票の集計に使われたコンピューターシステムに対するフォレンジック(デジタル鑑識)作業が行われなかったことは残念なことではあったが、アメリカの現行法が集計システムへのハッキングを通じた選挙への介入を想定していないため、フォレンジックを行う法的な根拠が見いだせないという裁判所の苦渋の判断だった。

 いずれにしても、12月19日の選挙人投票で一波乱起きる可能性は残されているが、来年1月から日本が、不動産王ドナルド・トランプ率いるアメリカ政府を相手にしなければならないことは、ほぼ確実な情勢となった。

 トランプ政権については様々な観測が流れているが、一言でいえば「予測不可能」というのが、衆目の一致するところのようだ。確かにトランプ自身が行政経験や公職経験が皆無な上、閣僚にも国務長官に内定しているティラーソン・エクソンモービルCEOを筆頭に、政治的にはほとんど未知数のワシントンアウトサイダーが名を連ねる。しかも、その多くは、政権の政策に対して個人的な利害を抱える利害当事者ばかりだ。これで政権の方向性を予想しろというのが、無理な相談かもしれない。

 トランプは先の選挙戦で、数々の奇天烈とも荒唐無稽とも言われる法外な政策をぶちあげてきた。その多くはあまりにも非現実的なため、「実際に大統領になれば、もう少し普通になるだろう」とする祈りのような予想をする専門家は多い。

 しかし、トランプ政権を甘くみてはいけない。日本のメディアではトランプが選挙戦中、メキシコや中国やイスラム教徒を目の敵にした発言が、多く報道された。しかし、トランプは明らかに日本も対峙する対象として視野に入れている。トランプの出馬表明演説やその後のメディアとのインタビューの全文を見ると、トランプの世界観では中国やメキシコと並んで、日本も「アメリカの市場の食い荒らし、アメリカから雇用と富を奪う存在」であると見ていることに疑いの余地はない。日米安保の片務性や日本の防衛力の強化、ひいては日本の核武装容認にまで言及したのも、自分たちがいいようにしてやられている日本に対して、アメリカが一方的に防衛義務を負っているのはおかしいではないかという考え方が根底にある。

 トランプの日本観が2000年代以前の日米貿易摩擦時代の、やや時代遅れのものであることは確かだ。しかし、アメリカ第一主義を徹底し、戦後一貫してアメリカが担ってきた世界の警察官役を放棄し、経済的にもアメリカに雇用の取り戻すことを最優先課題に掲げて当選してきたトランプが、今後どのような要求を日本に仕掛けてくるかは全く未知数だ。

 今後、トランプ政権から飛び出してくるかもしれない予想外の要求は、これまで日本が採用してきた日米安保を基軸とする軽武装・経済優先の政策路線にも大きな転換を強いることになる可能性がある。そうなれば日本の民主主義の強靭さが改めて問われる局面も出てくるかもしれない。

 ロシアのクリミア併合や中国の南シナ海での埋め立て、そしてブレグジットにトランプ政権の誕生と、明らかに世界は新しい時代に突入している。アメリカと協力して第二次大戦後の秩序の維持を図っていきたいと考えていた日本も、肝心のアメリカに既存の秩序を否定する政権が誕生してしまった以上、それなりの覚悟が必要になるだろう。

 共同通信ワシントン支局長などを歴任し、長年日米関係を取材してきた春名氏と、トランプ政権の見通しと日本への影響について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
春名 幹男はるな みきお
早稲田大学大学院客員教授
1946年京都府生まれ。69年大阪外語大学(現大阪大学)卒業。同年、共同通信社入社。本社外信部、ワシントン支局長、特別編集委員などを経て2007年退社。名古屋大学大学院教授などを経て、10年から現職。著書に『米中冷戦と日本』、『仮面の日米同盟』など。 819_haruna

 

  • 登録
  • 解除