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新聞の再販は誰のために

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第620回)

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公開日 2013年03月02日

ゲスト

専修大学文学部人文・ジャーナリズム学科教授

1959年京都生まれ。84年青山学院大学法学部卒業。同年、日本新聞協会入社。英国エセックス大学人権法研究所客員研究員などを経て、2006年専修大学准教授。12年より現職。著書に『3・11とメディア』、『言論の自由』など。

著書

概要

 長らく空席だった公正取引委員会の委員長に内定した元財務次官の杉本和行氏は、2月15日、国会の所信聴取の場で新聞社の再販制度に触れ、「特に今の段階で見直す必要があるは考えていない」との考えを示した。「吠える番犬」を目指し新聞再販の見直しに意欲を燃やしてきた前任の竹島一彦氏との好対照ぶりが際だった。
 日本の新聞社が絶大な恩恵を受けている「新聞再販制度」だが、その存在は余り知られていない。正確には再販価格維持制度と言うが、この制度のおかげで日本の新聞社は販売店に対して定価での販売を強制することができる。自由主義経済体制を標榜する日本では本来、モノの値段は市場原理で決まることになっている。そのため商取引上優越的地位にあるメーカーが定価を決定し、販売店に対してその値段での販売を強いる行為は独占禁止法で禁止されている。しかし、日本では新聞、書籍、雑誌、音楽CDの4品目のみが再販の対象として、例外的にメーカーによる定価販売の強制が許されている。他の商品では独禁法違反となる行為が、この四品目については例外的にその適用を免除されているのだ。やや電力会社の総括原価方式にも似ているが、この制度のおかげで結果的に新聞社は、あらかじめ利益を折り込んだ価格に定価を設定することが可能となっている。その意味では、他の商品ではあり得ないような大きな特権を得ていると言っていいだろう。
 新聞が再販によって特別に法の保護を受けている理由としては、真っ先に公共性があげられる。新聞のように公共性の高い商品を市場原理に晒せば、山間地や離島などで同一価格で新聞が買えなくなってしまったり、公共性の高いジャーナリズムの品質が維持できなくなる恐れがあるということだ。実際、自由競争というものがいかにコストを抑えながら利益を最大化するかの競争であるとすれば、新聞のような一定の公共性を帯びた産業を単純な市場原理のみに隷属させることは、必ずしも合理的ではないと考えられるだろう。
 しかし、である。もし公共性を理由に新聞社に対して再販という他に例を見ないほど手厚い保護を提供するのであれば、当然新聞社の側もその公共性要求に応えなければならないはずだ。少なくとも、再販で得た利益を使って、日本にクロスオーナーシップ(新聞社の放送局への出資)の規制が無いのをいいことに、日本中の放送局に出資をしてそこに自社の社員を天下らせるような行為が横行している現状では、その責任を果たしているとは言えないのではないか。
 また、新聞社が自社の紙面を使って再販を擁護するキャンペーンを張り、本来再販に対しては中立的な立場にあるはずの放送局は、新聞社との資本関係などから再販には一切触れようとしない状態が続いている現状も、再販の正当性を著しく弱めている。結果的に、再販の存在そのものがほとんど社会的に認識されず、特権だけが静かに維持されたまま一向に議論が深まっていないのが実情だ。
 公共的なジャーナリズムを護るためには再販は必要との立場を取るゲストの山田健太専修大教授も、特権を得ている新聞社自身の情報公開やその透明性が足りないと指摘する。新聞社は非上場であるため有価証券報告書の公開が求められていない。そのため経営情報は原則非公開のままで自主的な公開に任されているのみだ。しかし、再販などによって特別な保護を受けている以上、そこで得られた内部留保の使い道については一定の公開義務があって然るべきだろう。
 山田氏は「再販問題は新聞メディアの特権のほんの一例に過ぎない」として、税制上の優遇策や記者クラブ制度などの他の特権も含め、かつて新聞社がメディアの中で支配的な地位を占めていた時代から続く数々の特権については、新たな社会的な合意形成の必要性を訴える。
 かつて「ジャーナリズム」と言えばそのまま新聞を意味する時代が長らく続いた。そしてテレビが登場し、新聞のテレビの2強時代というものも確かに存在した。しかし、今日、インターネットの普及や社会の多様化によって、メディアも多種多様になりつつある。そうした中にあって、かつての古き良き時代の新聞の特権を無条件で延長し続けることは、市民社会のみならず新聞自身にとっても必ずしもプラスにはならないのではないか。
 山田氏は、メディアが細分化・多様化した今だからこそ、政治・経済・社会・事件・スポーツ・芸能を一つのパッケージにして手許に届けてくれる新聞のようなパッケージメディアの役割が重要になると、新聞の役割の重要性を説く。しかし、その大前提として、これまで既存のメディアがどのような特権を享受してきたのか、そしてその責任を果たしているかの検証は避けて通れない。なぜならば、特権はいずれも消費者や納税者として市民が負担しているものであるからに他ならない。その負担の対価として市民社会が何を得ているのか、そしてそれは特権を与え続けるに値するものなのかが議論されないまま、特権のみが静かに温存され続けている現状は、メディアによる権力の濫用の誹りは免れない。
 議論されない「再販」の問題点とメディアの今後についてジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、山田氏と議論した。

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