2011年10月1日
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5金スペシャル
自分探しを始めたアメリカはどこに向かうのか

町山智浩氏(映画評論家)
マル激トーク・オン・ディマンド 第546回

 今回の5金は久々の映画特集。ゲストに町山智浩氏を迎え、「ウインターズ・ボーン」「アザー・ガイズ」「フェアゲーム」「カンパニーメン」の4本のアメリカ映画を通じて見えてくる、アメリカの今とその向かう先を議論した。
 1本目は宮台氏イチオシのウインターズ・ボーン。アメリカの山岳地帯に今も残るヒルビリーと呼ばれる人々が住む隔絶された部族社会の中で、17歳の少女が家族を守るために、村の掟に背いて姿を消した父を捜し求め、戦い続ける姿を感動的なタッチで描いたもの。叩かれても叩かれても挫けない少女の逞しさに、現在の経済的な逆境に立ち向かうアメリカの意気込みが重なる。
 2本目はアザー・ガイズ。一見、刑事モノのドタバタ喜劇のようだが、よく見ると随所に既存の刑事映画の揶揄がちりばめられていたりする。TVの人気お笑い番組「サタデーナイト・ライブ」の名コンビであるアダム・マッケイ監督と主演のウィル・フェレルによる一段上の笑いを誘ってくれる作品だが、悪者には拳銃をぶっ放しておけば事が済んでいたこれまでのアメリカからは、一皮剥けた、あるいは一皮剥けようとしている印象が伝わる。
 3本目はカンパニーメン。日本語に訳せば「会社人間」。アメリカでも10年ほど前から、日本に負けないほど仕事漬けの会社人間が多くなったと言わるようになった。典型的な会社人間だったベン・アフレック演じる37歳の会社人間ボビーが、リーマンショックの煽りを受けて会社をリストラされたことで、これまでの人生の価値観を根本から見直す必要に迫られるという設定。と聞くと、月並みなストーリーに聞こえそうだが、この映画で特筆される点は、その主題の一つが「会社は誰のものか」という問い。日本でも何年か前にしきりとこの議論が交わされたことがあったが、少なくともここ最近までアメリカでは、「会社は株主のもの」がコンセンサスであり常識であるとさえ言われた。しかし、リーマンショックを経てアメリカも、会社が持つ社会的な機能や社員やその家族との関係などを見直す必要に駆られているようだ。
 そして4本目のフェアゲームはブッシュ政権下で現実に起きた「プレイム事件」を映画化したもの。プレイム事件とは、ヴァレリー・プレイムという女性がCIAの工作員(エージェント)であることがマスコミに暴露された事件のこと。CIAのエージェントの身分を公開することは、他の工作員の命を危険にさらす恐れがあるため、アメリカでは法律で禁じられている。
 9・11の同時テロ直後、当時のブッシュ政権は同時テロを、悲願だったイラク攻撃の格好の口実にできると考え、イラクのサダム・フセインが大量破壊兵器を保有しているとの情報をしきりと流布した。しかし、プレイムの夫の元外交官ジョー・ウィルソンはそれが事実無根であることを知り、政府批判を始める。そして、チェイニー副大統領のスクーター・リビー首席補佐官やブッシュ大統領のカール・ローブ補佐官らは、その報復としてジョーの妻のバレリーがCIAの工作員であることをマスコミに漏洩し、この夫婦を潰しにかかる。
 禁猟期間が明けた時に標的となる獲物を「フェアゲーム」と呼ぶそうだが、ジョー・ウイルソンとバレリー・プレイムの夫婦が、政府から狙われる標的となったという意味で、このタイトルが付けられているそうだ。
 アメリカは8年間続いたブッシュ政権の下でのテロとの戦争に疲弊し、また映画の主題ともなった無理なイラク攻撃を強行した挙げ句の果てに泥沼にはまり、多くのアメリカ人の若者が命を失った。また経済面では、リーマンショックによって、命綱だった金融部門が痛手を受ける中で、これまでの「ネオコン」路線を修正すべく変革を旗印に掲げるオバマ政権が2008年に誕生した、はずだった。しかし、そのオバマ政権も政権発足から3年経った今、支持率は低迷し、アメリカでは草の根保守のティーパーティ運動が勢いを増している。アメリカの自分探しは、まだしばらく続きそうだ。
 政治、経済、社会の各方面でいま懸命に自分探しをするアメリカの姿を浮き彫りにする4作品を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、映画評論家の町山智浩氏と語り合った。(今週は5金(5回目の金曜日)に当たるため、特別番組を無料で放送します。ニュース・コメンタリーと福島報告はお休みします。)

 
町山 智浩まちやま ともひろ
(映画評論家)
1962年東京都生まれ。86年早稲田大学法学部卒業。同年宝島社入社。『宝島』、『別冊宝島』、『宝島30』を経て、95年洋泉社に出向、『映画秘宝』の創刊に携わる。96年同社を退社。97年より現職。米国・カリフォルニア州オークランド在住。著書に『映画の見方がわかる本』、『USAカニバケツ』、『新版底抜け合衆国〜アメリカが最もバカだった4年間』、『トラウマ映画館』など。
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