2012年12月14日
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最高裁判所がおかしい

山田隆司氏(創価大学法学部准教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第609回

 来る16日の総選挙で各政党は国民に信を問うべく様々な政策を掲げている。しかし、もしかするとこの選挙で問われるもっとも大きな「信」は別のところにあるかもしれない。
 それは最高裁に対する「信」だ。単に最高裁判所裁判官の国民審査のことを言っているのではない。実は「違憲状態」のまま行われているこの選挙は、最高裁によって果たしてそれが有効と判断されるかどうかが問われる選挙でもあるのだ。
 最高裁は去年3月、前回2009年の総選挙で生じた2.30倍の「一票の格差」が、有権者の権利を侵害しているとして、具体的な選挙制度の不備を指摘した上で、それが「違憲状態」にあることを認めた。「違憲状態」とはまだ合憲ではあるが、このままでは違憲になるという意味だという。15人の全裁判官が臨んだ大法廷で、13人が「違憲状態」、2人が明確な「違憲」の判断を下していた。そして、野田政権はそのままの状態で、もう一度選挙を行う選択を下した。最高裁に対する明白な挑戦と考えていいだろう。
 野田政権が断行した総選挙に対して弁護士グループから差し止め請求がおこなわれたが、最高裁は選挙を差し止める権限を認める法律が存在しないことを理由にこの請求を退けた。しかし、選挙後に日本中で提起されることが予想される選挙の無効訴訟に対しては、最高裁は自らが下した「違憲状態」の真価を問われることが避けられない。
 元読売新聞記者で現在創価大学の准教授を務める法学者の山田隆司氏は、これまで最高裁はできる限り「違憲判決」については消極的な姿勢を貫いてきたと言う。結果的に過去64年間で最高裁が明確に違憲と判断した事件はわずか8件にとどまっている。これは、三権分立の下で司法は、国民に選挙で選ばれた立法府の行為を否定することに極力謙抑的であるべきであるという、消極司法の考え方がその底流にあるという。しかし、その消極司法の結果、政治は度重なる「違憲状態」の判決にもかかわらず、一票の格差を抜本的に解消しようとしなかった。それを解消することで、自分の議席が脅かされる議員が多いためだ。
 今度ばかりは最高裁は伝家の宝刀を抜くのか。山田氏は国民がどれほどこの問題に関心を寄せるかにカギがあるという。日本では伝統的に司法と国民の間に距離があり、われわれの多くが裁判所のあり方に十分な関心を払ってこなかったのも事実だろう。しかし、自ら「違憲状態」を宣言し、具体的に各都道府県1議席の事前割当が問題であることを指摘する判決を出しながら、それが全く是正されないままおこなわれた選挙を、果たして最高裁は「合憲」と判断できるのか。そのことで最高裁の権威は決定的に傷がつくのではないか。
 その意味で、今回の選挙でもっとも重い信を問われているのは他でもない、最高裁なのだ。
これまでわれわれ国民やメディアが監視を怠ってきたために、最高裁を頂点とする日本の司法制度は制度的にも数々の問題を抱えているようだ。15人しかいない最高裁の判事が年間に処理する訴訟の数は1万1千件を超える。平均すると一人当たり800件弱、実際は3つの小法廷にそれを割り振っているため、一人の最高裁判事が年間4000件近くの判決に関与していることになるのだ。年間200日、1日8時間働いたとして、一つの事件に30分も割けない計算になる。これでは判決文はおろか、下級審の判決を読むこともできないではないか。
 当然の帰結として、実際の判決は最高裁判所調査官と呼ばれる司法官僚が牛耳ることになる。また、裁判所は人事も予算も最高裁事務総局と呼ばれるこれまで司法官僚からなる部局に握られている。現行の制度の下で、各裁判所の裁判官は自らの良心にのみ従って独自に判断を下せるようになっているのか。裁判所は法的には情報公開義務もないため、実態がどうなっているのかも外部からはまったくうかがい知ることができないのだ。
 裁判所は法の番人であり、人権の最後の砦でもある。裁判所が機能しなければ、民主主義が正常に機能するはずがない。最高裁をはじめとする日本の裁判所は今どのような問題を抱えているのか。それを解決に向けるためには、われわれ一人一人は何ができるのか。「裁判所に変化の兆しが見える」と語る山田氏と、最高裁判所のいまとこれからについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 
山田 隆司 やまだ りゅうじ
(創価大学法学部准教授)
1962年大阪府生まれ。1985年創価大学法学部卒業。同年読売新聞入社。2008年大阪大学大学院法学研究科博士後期課程修了。法学博士。2012年より現職。著書に『最高裁の違憲判決』、『記者ときどき学者の憲法論』、共著に『よくわかるメディア法』など。 609_yamada

 

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