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2017年05月20日公開

安倍政権がやりたい放題できるのはなぜか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第841回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1968年三重県生まれ。91年東京大学法学部卒業。95年同大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。大阪市立大学助教授、立教大学教授などを経て2011年より現職。著書に『自民党政治の変容』、『自民党―「一強」の実像』など。

著書

概要

 かつて自民党の名だたる歴代内閣が何代にもわたって成し遂げられなかった様々な立法や施策を、安倍政権は事もなげに次から次へと実現している。今週は共謀罪が衆院で強行採決された。その前は集団的自衛権を解禁する安保法制を通し、さらにその前は秘密保護法だ。

 それ以外にも武器輸出三原則の緩和や教育基本法の改正など、安倍政権は自民党の長年の課題をことごとくクリアしていると言って過言ではないだろう。

 そして安倍首相は遂に、自民党結党以来の野望とも言うべき憲法9条の改正を明言するまでにいたっている。

 このまま行くと、安倍首相は自民党「中興の祖」とでも呼ぶべき大宰相になりそうな気配さえ漂う。

 しかし、なぜ安倍政権は自民党の歴代政権の中でもそれほど突出して強く、安定した政権になり得たのか。これは単に「野党のふがいなさ」だけで、説明がつく現象なのか。

 一橋大学大学院社会学研究科の中北浩爾教授は、安倍政権の権力の源泉は、1990年代から段階的に続いてきた「政治改革」に請うところが大きいと指摘する。

 かつての自民党政治の下では、中選挙区制度の下、派閥の領袖が権勢を誇り、政策立案や予算編成では族議員が跋扈してきた。しかし、ロッキード事件やリクルート事件などを契機として、「政治とカネ」の問題が社会を揺るがすようになり、1990年代以降、「政治改革」が叫ばれるようになった。

 政治改革は政治家がカネ集めに奔走することなく、政策本位の政治を実践するために、小選挙区制の変更、政治資金規正法の強化と政党助成金の導入などを柱とする施策が相次いで実施された。

 また、少し遅れて、官僚のスキャンダルなどを機に、官僚まかせの政治から脱却した「政治主導」が叫ばれるようになり、首相官邸に権力を集中するために、「経済財政諮問会議」の設置や「内閣人事局」の設立など、数々の改革が実施された。

 いずれも、サービス合戦に終始しがちな中選挙区制の利権政治と決別し、国民から選ばれた政治家が、政権交代が可能な制度の下で官僚主導ではなく政策本位の政治を実現するというのが、その大義名分だった。

 その目的自体は間違っていなかったかもしれない。しかし、制度をいじれば自然に政治がよくなると考えるのは、あまりにもナイーブだった。制度は大きく変わったが、国民の政治に対する向き合い方は、本質的には従来からの「おまかせモード」のままだった。

 結果的に本来の目的とは裏腹に、一連の改革は、党においては小選挙区制の下での生殺与奪を握る公認権や政党助成金の配分権を握る党の執行部に権力を集中させる結果になった。しかも、派閥の影響力が弱まったため、かつての政権と党の間の緊張感は消滅し、首相の留守を預かる党幹事長も、事実上首相の配下に置かれることになった。更にその上に、官邸主導である。

 安倍政権の強みは、「政治改革」後の政治システムが、党内においては異論を挟む余地を与えぬ執行部主導となり、政策立案についても官邸が選んだ有識者会議によって政策の方向性を確定させた上で、その理念に沿って政策立案をする意思のある官僚を登用することが可能になっているところにある。一連の政治改革が、安倍首相の下で、やや予想外の形で実を結んでいるのだ。

 しかも、安倍政権の保守色の強い政策路線は必ずしも現在の自民党の総意を反映しているとは言えないが、リベラル色の強い民進党に対抗するためには、自民党は右に寄らざるを得ないという意識は、下野を経験した自民党の中には広く共有されている。そのため、リベラルな首相よりも、保守色の強い首相の方が、現在の自民党はまとまりやすい。

 それが現在の安倍政権の「やりたい放題」を可能にしているというのが実情ではないか。

 一連の政治改革は自民党内で派閥や族議員の間で密室内で行われていた非公式な政策論争を、むしろ二大政党制の下で政権担当能力を有する野党との間で活発に交わされることが前提にあった。つまり、いざ政権を取れば党に権限が集中することも、官邸主導で政策が遂行されることも、織り込み済みだったが、そこには政権交代可能な野党が存在するという大前提があった。

 政権交代可能な二大政党の間で活発かつオープンな政策論争が交わされ、一定の頻度で政権交代が実現するのであれば、現在の権限集中型「トップダウン」の政治制度は効果的かもしれない。政権交代可能な制度の下では、新たに政権に就いた政党は、できるだけ早い段階で政権交代の成果を見せる必要があるからだ。

 しかし、政権交代の可能性を失った瞬間に、この制度は欠点が前面に出てくる。野党が弱いと国会は政権監視の機能を十分に果たせない。かといって与党内も党執行部に対する異論は出ない。官邸に人事権を握られている高級官僚たちも、政権の意向には唯々諾々と従わざるを得ない。これではどんな政権になっても暴走して当然ではないか。

 とは言え、今さら政治改革を後戻りさせる案は現実的ではない。野党が再び政権担当能力を持つ政党として、自民党にチャレンジできるだけの有権者の信用と信頼を得られるようにならなければ、自民党のやりたい放題は続き、政治改革の本来の効果は裏目に出たままの状態が続くことが避けられない。

 中北氏は野党が自民党に太刀打ちするためには、野党勢力の結集そのものは重要だが、そのような小手先の議論をする前に、民進党や他の野党は、まず個々の議員の政治的な基盤、とりわけ選挙基盤をしっかり固める必要があると語る。実は自民党の真の強みもそこにあるというのが、長年自民党を見てきた中北氏の見立てだ。

 30年来、40年来の政治課題が次々と実現してしまう現在の政治状況を、われわれはどう見るべきなのか。なぜそのような状況が生まれたのか。日本の政治を活気ある民主主義に脱皮させていくために、今、われわれは何をしなければならないかなどを、中北氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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