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2021年11月20日公開

大谷翔平という奇跡を可能にしたもの

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1076回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2022年02月20日23時59分
(終了しました)

ゲスト

スポーツジャーナリスト、メジャーリーグ評論家

1956年千葉県生まれ。80年中央大学商学部卒業。大学在学中よりメジャーリーグの評論・取材を行う。同年旅行代理店に入社し大リーグ観戦ツアーなどを企画。95年より現職。77年アメリカ野球愛好会を結成し代表に就任。著書に『素晴らしいアメリカ野球―その楽しみ方から感動秘話まで』、『日本人メジャーリーガー成功の法則 田中将大の挑戦』、監修に『大谷翔平 2021年シーズン全本塁打徹底分析』など。

著書

概要

 世界の野球界の最高峰に君臨するメジャーリーグでMVPを取れるほどの日本人選手が生まれた。日本人としては20年前にイチローがメジャー挑戦1年目でMVPを受賞しているが、大谷の場合は、これまで誰も成し遂げることができなかった2-way(二刀流)選手としての受賞であり、メジャー屈指のホームランバッターにして剛速球投手としての受賞であるところが、まさに画期的なのだ。

 とかく人材を輩出できないと言われる日本からなぜこれだけの大選手が生まれたのかを、メジャーリーグ博士の異名を取るスポーツジャーナリストの福島良一氏と考えた。

 とにかく存在そのものがあまりにも奇跡的で、野球に詳しくない人にこれをどう説明すればいいかに当惑するほどだ。サッカーファン相手であれば、リオネル・メッシが日本出身で、しかもこのメッシは得点王であると同時に、想像を絶するようなファインセーブを連発する世界のサッカー界を代表するゴールキーパーも兼ねていたような感じ、とでも言えば、多少はそのすごさが伝わるだろうか。

 確かに大谷の身体能力はメジャーリーグでも傑出している。193センチの長身に長い腕と長い脚、柔軟な関節などの類い希なる恵まれた体格から生まれる160キロを超える剛速球と、直球(4シーム)と同じ軌道を描きながらホームベース直前で大きく沈み込む落差の大きなスプリット(SFF)。打っては、メジャー屈指のスイングスピードが生む打球の初速は185キロを越えメジャーでは3本指に入る。大谷の今シーズンの46本塁打はゴジラ松井秀喜が残した日本人のメジャー最多本塁打記録の31本を大きく上回り、ウラジミール・ゲレーロ・ジュニア、サルバトール・ペレズといった超一流のホームランバッターたちを相手に最後までホームラン王争いを演じた。走るスピードもメジャー屈指で、その最高速は2019年にNFLでMVPを受賞したボルチモア・レイブンズのスーパースターQB(クオーターバック)のラマー・ジャクソンに匹敵する。これまで日本人選手が逆立ちしても勝てなかったパワーとスピードで、並み居るメジャーリーガーを凌ぐほどの優れた選手が日本から出たというだけでも、これまでの常識では考えられないことだ。

 とは言え、身体能力だけなら、これまでも優れた選手は大勢いた。しかし、これまで大谷のようなピッチャーとバッターでいずれもメジャートップクラスの成績を残せるような選手は、日本はおろかメジャーリーグでも出てこなかった。なぜ突然大谷が、ベーブルース以来と言われるその壁を破ることができたのか。

 福島氏は、高校や大学まではピッチャーで4番打者という選手はいくらでもいるが、これまではプロに入る際に必ずどちらかに専念することを求められるのが当たり前だった理由として、投手と打者という明らかに異なる能力が求められる2つの分野で同時に、プロの厳しい世界で通用するような能力を身につけることは、どんなに運動能力が高くても不可能なことだと考えられていたからだと言う。大谷はその常識を根底から覆したのだ。

 二刀流を実現するためには、ピッチャーとしてのトレーニングとバッターとしてのトレーニングを両立させなければならない。それだけ練習量も多くなる。また、いざ長いシーズンが始まり、投手として出場した試合の後も打者として出場し続ければ、当然疲労が溜まり、調子を落としたり怪我をしたりするリスクは大きくなる。それに、そもそも両方の分野である程度以上の成績を残せるのでなければ、二刀流をやっても意味がないが、厳しい競争を勝ち抜いてその分野の最高の選手たちが集まるプロ野球において、一つの分野で通用するだけでも並大抵のことではない。

 にもかかわらず、大谷は18歳でプロ入りする段階から迷うことなく二刀流への挑戦を明言し、それを認めてくれることを条件に、まず日本では日本ハムを、5年後には二刀流を認めてくれる球団ということでロサンゼルス・エンゼルスを選んでいる。大谷がジャイアンツにドラフトされたり、ヤンキースと契約していたら、恐らく二刀流のスーパースターは生まれなかったのではないか。

 実際、大谷の二刀流については日本のみならず、野球の本場アメリカでも懐疑的な見方をする人が多かった。しかし、なぜか大谷は自信に満ちた表情で二刀流を押し通し、彼をドラフトした日ハムも、ポスティングで彼を獲得したエンゼルスも二刀流を認めた。父から指導を受けた少年野球時代を皮切りに、花巻東高校の佐々木洋、日ハムの栗山英樹、エンゼルスのマイク・ソーシア、ジョン・マドンと、何れも名将として知られる名監督の下で、指導者にも恵まれた。持って生まれた身体能力と強い心、そして誰もが羨むような優れた指導者という、普通ではあり得ないような突出した好条件が奇跡的に重なった結果、今回の大谷の二刀流MVPが実現したのだった。

 しかし、何と言っても大谷翔平を語る時、その内面的な誠実さや向上心に触れないわけにはいかないだろう。過去の本人や関係者らのインタビューや先週の日本記者クラブでの記者会見を見ても、二刀流の金字塔と言っても過言ではないほどの偉大な記録を打ち立てながら、大谷自身はMVPだのその他の表彰だのにはまったく興味がないという体で、既に心は来シーズンに向けたトレーニングの方に向けられていることがうかがえた。メジャーリーグでの試合中にグラウンドに落ちているゴミをさりげなく拾い上げてズボンのお尻のポケットに入れる様が偶然テレビ画面に映り、アメリカでは称賛を浴びると同時にその行動が驚愕の対象となっているが、既に日米両国でMVPに輝いている大谷ほどの大選手になれば、普通はとうの昔に天狗になっていてもおかしくはない。いや、そうなるのが普通だ。多くの野球ファンに、大谷はまだまだ上を目指せる予感を感じさせるのは、大谷の野球に対するいたって謙虚で実直な姿勢を知っているからだ。他の人と比べれば自分の記録は既に群を抜いているかもしれないが、自分自身の基準ではまだまだ足りないところがあり、伸びしろがあり、それを追求していかなければ面白くない。大谷は過去のあるインタビューで、「誠心誠意プレーをしなければファンやこれまでお世話になった人に対して申し訳なく思う」と語っている。そんな大谷翔平を見て、元々日本人が持っていながら、どこかに忘れてきてしまった美徳を身をもって体現してくれていると感じている人は、きっと多いはずだ。

 いずれにしても今シーズンの大谷の二刀流の大成功は、野球に大きな変革をもたらし始めている。高校や大学からプロを目指す若い選手が二刀流を希望した時、指導者は「投手か打者のいずれかを選びなさい」と命じにくくなるだろう。現にメジャーリーグは大谷の二刀流の活躍を受けて、ベンチ入りできる選手構成のルールを二刀流選手にとって有利なものに変更している。それを受けて、大谷に続けとばかりに、二刀流登録をする選手が登場し始めているが、その成績はまだまだ大谷の足下にも及ばない。少なくともこの先5年や10年は、大谷ほどの二刀流選手が登場することは、まずないだろうと専門家の多くは言う。

 シーズン中はロースター(1軍選手枠)に26人しか登録できない厳しい制約のあるメジャーリーグでは(日本のプロ野球は29人)、一人二役をこなせる選手がいれば事実上ロースターに27人以上の選手を置けるのと同じことを意味し、監督にとっては選手起用の選択肢が大きく拡がる。大谷の活躍が野球の戦術を根底から変え始めているのだ。

 今週は大谷選手のMVP受賞を受けて、メジャーリーグに詳しい福島良一氏とともに、何が大谷翔平という奇跡を可能にしたのかについて、メジャーリーグの大ファンでメジャーリーグに関する本の翻訳も手がけているジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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