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2014年03月01日公開

ディオバン事件と利益相反という日本の病理

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第672回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

内科医・東京大学医科学研究所客員研究員
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1972年鳥取県生まれ。97年九州大学医学部卒業。国立がん研究センター中央病院内科レジデント、鳥取大学病院助手、独立行政法人医薬品医療機器総合機構審査専門員などを経て2011年よりナビタスクリニック、ときわ会常磐病院の内科医。がん研究会がん研究所客員研究員を兼務。

著書

概要

 東京地検特捜部が2月19日に製薬会社のノバルティスファーマや京都府立医大に対して家宅捜索に入った。表向きの容疑は薬事法で禁じられている医薬品の誇大広告ということだが、この事件は期せずして9.3兆円産業と言われる医薬品をめぐり、業界と大学・研究機関の間の根深い癒着構造を白日の下に晒すことになった。
 京都府立医大をはじめ慈恵医大など5大学の研究チームは臨床試験の結果、降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)には血圧を下げるだけでなく、他の降圧剤に比べて脳卒中を予防する効果が確認されたとする論文を発表していた。しかし、研究データに不自然な点が指摘され、より詳しく調査が行われた結果、この研究には何と薬の販売元のノバルティスファーマの社員が、身分を隠して関わっていたことが明らかになり、自社にとって都合の良い結果が出るようにデータを不正に操作したのではないかという疑いが出てきているというのだ。
 しかし、京都府立医大らの研究結果は国際的に評価の高い高級医学論文誌「ランセット」にその研究結果が掲載されたために、大きな広告効果があったとみられている。
 内科医で医療ガバナンスの問題に詳しいゲストの谷本哲也氏は「今回の問題は、海外論文誌を巻き込んだ新しいタイプの問題だ」と指摘する。多額の寄付を行っている大学や研究機関に自社の薬の臨床研究を依頼し、その結果を高級医学誌に掲載することで、国際的に薬効を宣伝し、販売広告にもつなげるという仕組みで、製造元のノバルティスファーマはディオバンで累計1兆円以上という莫大な売上げを手にしている。
 薬事法は医薬品の許認可については厳しい基準が設けられているが、認可後の臨床研究についてはほとんど規制がないため、仮に今回の事件で薬事法違反が確定したとしても、課される罰金は200万円の科料に過ぎないという。医療関係者の性善説に立った薬事法は元来、悪意を持って臨床研究を薬の販売促進に使う行為を想定していないのだと、谷本氏は言う。ディオバンの高血圧治療薬としての効果は既に認可を受けているため、仮に今回、販促目的でプラスαの薬効を謳うために論文の捏造が行われたことが明らかになったとしても違法性が問われない可能性もあるのだという。
 しかし、それにしてもある商品の販売元の社員が、身分を隠して研究に関わり、データにも直接タッチしていたというような、あからさまな利益相反が放置されているとすれば、日本の臨床研究そのものの信頼性が問われることになりかねない。なぜ医療研究において利益相反や利益供与の問題が、ここまで軽く見られてしまうのだろうか。
 谷本氏は日本の臨床研究に対する国の補助・支援が弱いことを理由の一つとして挙げる。日本では公的資金が当てにできないため、大学や研究機関は企業から助成を受け入れざるをえない状況になっている現状を指摘する。事実、今回研究の不正が判明した5つの大学すべてにノバルティスファーマから多額の寄付が行われていたことが明らかになっている。
 製薬業界から医師や医療機関に提供される資金は明らかになっているものだけでも年間4,410億円に上り、2013年度の国の科学研究費予算2,381億円を大きく上回る。この資金が、学会、勉強会、シンポジウムの運営費や宿泊費、交通費、そして原稿料などの形で医療機関や医師個人に提供されている。このような構造が、現在の製薬業界と医療の間の利益相反の根底にある。
 谷本氏は、こうした日本の現状を前に、現在、日本の臨床研究論文が次第に世界から相手にされなくなり始めていると警鐘を鳴らす。日本の医療界は元々基礎研究が重視される傾向があり、臨床研究の水準が低い。そこに今回の論文ねつ造事件が起きたことで、日本の研究の信用性について海外から疑念を持たれはじめているというのだ。
 しかし、こうした資金が、最終的にはすべて一般市民が支払う医療費から出ているものであることを忘れてはならない。国民皆保険によって医療機関の窓口での負担は軽減されているように見えるが、保険がカバーしている医療費の約4割は税金で賄われている。その金額は年間38兆円余りにも上る。薬剤費だけでも年間8兆円以上もの税金が投入されているのだ。
 今回の臨床研究論文の不正は、医薬品業界に限ったことではない。日本には同様の利益相反が容認され、放置されている分野が多数存在する。癒着構造の下で不当な利益が貪れる一方で、その穴埋めに使われているのがユーザーの負担であり、税金でもあるのだ。
 病気を治したり患者の命を救うことが最優先される医療には、医師の処方の権利は侵されるべきではないという不文律があるため、安易な規制は難しい面がある。しかし、であればこそ腐敗や癒着を極力排除するために、利益相反をガラス張りにする制度や患者自身が費用とメリットを比較衡量する制度が必要ではないのか。
 今や日本の至るところに巣くう利益相反の罠を、われわれはどう考え、これにどう対応すべきか。まずは医療の現場からゲストの谷本哲也氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が考えた。

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